昨年度ベスト4のチームを倒した勢いは、自分たちが思っていた以上に味方してくれた。強気で攻め続けた夕陽ヶ浜学園は、全ての試合をフルセットで戦い続けることになったが、そのどれも勝ち取っていった。
準決勝の相手は、昨年度の優勝チームで、今年も優勝候補として名をはせていた、東京第一代表だった。1セット目を先取した夕陽ヶ浜学園だったが、そう簡単に勝たせてくれる相手ではない。フルセットまでもつれ込み、空があの日言ったように総力戦での戦いになった。翔太も、サーブだけでなく攻撃にも加わりながら、全員で戦った。デュースを繰り返し、粘り強く挑んだ結果、夕陽ヶ浜学園は勝利した。
最後の一点はやっぱり空が決めた。ここで決められるのが空はすごいと言われるところの一つだ。仲間からの信頼を力に変えて、空は相手コートにスパイクを叩きつけた。
決勝が決まった日の夜、翔太は宿泊施設の縁側で一人たたずむ空を見つけた。声をかけようか一瞬迷ったけど、声をかけた。春高期間中は、合宿のように大広間を2部屋借りて、宿泊していた。上級生と下級生で部屋が分かれていたので、空と二人きりでゆっくり話す時間はほとんど取れていなかった。
「空くん。」
「ん?あぁ、お疲れ。」
「お疲れ様です。何してたんですか?」
「んー黄昏中?」
「ふはっ。何それ。」
「座れば?」
空がそう言って、自分の隣をポンポンと叩いた。それに素直に従って、翔太は空の隣に腰を下ろした。真冬の空気がツンと肌を刺す。寒いけど、でも、それ以上に空と一緒にいられるこの時間が嬉しかった。
「いよいよですね。」
「そうだな。」
「緊張しますか?」
「んー実感ないっていうのが正直なとこかな。」
「そっか・・・」
「翔太は?緊張する?」
「んー俺は、どっちかっていうと寂しい?ですかね?」
「寂しい?」
「うん・・・明日、もちろん勝ちたいですけど、勝っても負けても、明日で空くんたちと一緒にバレーできるのは最後やないですか。」
「そうだね。」
「だから、寂しいです。まだ、空くんと一緒にバレーしてたい。」
それが翔太の素直な気持ちだった。まだ翔太のバレーは続いていく。空も大学に進学して、バレーを続けると聞いている。でも、こうして同じ時間に同じチームで、同じ夢に向かって一緒に戦える時間は明日で終わってしまう。だから寂しい。終わってほしくない。
「翔太はいつも翔太だね。」
「え?」
「素直でまっすぐで、俺にはないもの全部持ってる。」
「え・・・?」
「大丈夫だよ、俺がいなくてもお前は強い。この先、このチームを引っ張っていく戦力になるよ。」
「空くん・・・。」
「それに・・・」
「それに・・・?」
「この先も俺はお前と一緒にいたい。引退して、卒業して、それで終わりは嫌だと思ってるんだけど、お前はどう?」
まっすぐに前を向いたまま、空は言った。翔太は胸がいっぱいだった。この先の未来、自分たちの関係がどうなっていくのか、漠然としすぎていてどうなっていくのか不安だった。いつかちゃんと話し合わないといけないと思っていたのに、このタイミングで空から素直な思いを聞けるとは思ってもみなかった。
「・・・俺も・・・俺もこれからもずっと、空くんと一緒にいたいです。」
「うん。よかった。・・・ってお前、また泣くなよ。」
「泣いてへん。」
「泣いてんじゃん。なんで嘘つくんだよ。」
「・・・っう・・・」
「しっかりしろよ。まずは明日。勝つぞ。」
「はい!!」
「ふはっ。変な顔。」
泣きながら返事をする翔太を笑いながら、空は立ち上がった。それに習って、翔太も立ち上がる。
「よし、戻るか。」
「はい。」
「また明日。」
「はい。おやすみなさい。」
「ん。おやすみ。」
二人はそれぞれ自分たちの部屋に戻っていった。いよいよ、夢にまで見たセンターコートでの戦いが始まる。