春高初日は、ひらひらと雪が舞うほど寒さの厳しい一日となった。開会式を終え、練習をするために近くの体育館へ移動し、そこで最終調整を行った。翔太は今回もユニホームを着て、サブメンバーとしてチームを支える。空は変わらずスターティングメンバーだ。
春高出場を決めたあの予選の夜。空は翔太に、『総力戦になる』と言った。それはつまり、固定されたレギュラーメンバーだけが戦うのではなく、サブメンバーも全員総出で戦うことを意味していて、もちろん翔太にも出場の機会が回ってくるということだ。空の言葉を信じて、翔太はいつ自分に機会が回ってきても戦えるように努力を続けてきた。
空と、3年生たちと一緒にバレーボールができるのはこの大会が最後。恋人としてではなく、憧れの人に有終の美を飾ってもらいたい。そして、そこに自分も関わっていたい。チームのために、空のために、そして自分のために、翔太はこの春高を戦い抜こうと覚悟を決めていた。
強豪校が激戦を繰り広げる中、夕陽ヶ浜学園は順調に駒を進めていった。一回戦、二回戦と勝ち上がり、迎えた3回戦。ついに翔太にチャンスが回ってきた。相手は、昨年度ベスト4に入っている大阪代表。1セット目を先取され、もう後がない第2セット。夕陽ヶ浜学園が2点先を走っている場面で、リリーフサーバーとして出場機会が回ってきた。
翔太にとって、初めての春高の舞台。コートに入った瞬間、これまでとは明らかに違う雰囲気に押されそうになった。絶対に負けられないからこそ、自チームも相手チームも覇気がこれまでの大会とは、まるで違っていた。はやる鼓動を抑えるために、何度か深呼吸をする。その時、空と目が合った。空が「大丈夫だ」とでも言うように、深くゆっくり頷く。その瞬間、不思議と体の力がいい具合に抜けた。
結果的に、翔太が放ったサーブは相手を大きく崩して、ゆるやかに返ってきたボールは、こちらの攻撃を優位にした。一点、そしてまた一点と得点をして、大きく差を広げて、翔太はコートを後にした。4点差に開いた点数は、中で戦っているメンバーたちに心の余裕を取り戻させた。
2セット目を取った勢いで、接戦ではあったが、3セット目を取って、夕陽ヶ浜学園はまた一歩センターコートに近づいた。
「翔太、ナイス。」
「空くん。」
試合が終わって、ほっと胸をなでおろしている翔太に空が声をかけた。空の首からは、翔太とそろいのチタンネックレスが今日もかけられている。もちろん翔太の首にもかけられていて、互いにそれを見るたびに一人じゃないと実感することができていた。
「サーブ、またスピード上がったんじゃない?」
「まだまだですよ。やっぱり、春高は違いますね。今までと全然違う。」
「そりゃそうだよ。みんな、負けたら終わり。後がない。みんなが夢見て、立ちたいって願う場所だから。」
「そうやんな・・・俺、空くんと一緒にここに来られて、ほんまに嬉しいです。」
「何言ってんだよ。まだ、ここからだぞ。次も、勝つぞ。」
「はい!」
翔太と空は、互いの手をパチンと合わせた。同時に集合の声がかかり、二人はチームの輪の中に加わった。