10 1月
 全日本バレーボール高等学校選手権大会、通称春高バレーは、毎年1月、年が明けてすぐに開催される。全国から予選を勝ち上がってきた代表チームが、東京にある東京第一体育館に集結する。2年前の大会で、夕陽ヶ浜学園は初出場にして初優勝を果たした。まだ中学生だった翔太がテレビで見ていたあの大会だ。その後、インターハイ、春高と毎度出場するものの、全国制覇には一歩届かず、悔し涙を呑んできた。今年こそ、再び全国の頂点に立つために、チーム一丸となってここまでやってきた。
 
 負けたら終わりのトーナメント戦。しかも相手はどれも全国トップレベルのチームばかり。毎試合、タフな戦いが続いていく。決勝のセンターコートを目指して、そしてその先にある全国制覇を目指して、激闘を繰り広げる。

 開幕前日の夜。さすがの日下部空にも、少々緊張の色が見られた。それは翔太も同じで、お互いベッドに入ってからしばらく、寝付けずにいた。

「・・・翔太。もう寝た・・・?」
「・・・いや・・・まだです。」
「そっち行っていい?」

 これまで同じ布団で寝ることはあったけど、空からこんなにはっきりと言われることはなかったので、翔太は正直戸惑った。どちらも体は大きいし、二人で寝たらどうしても狭くなる。体を痛めるほどではないが、明日から春高が始まることを考えると、体はしっかりと休める方がいいに決まっている。頭では分かっている。そして、それは空も同じだ。きっと空も一人で眠った方が体は休まると分かっていて、それでもこんな提案をしてきた。それならば、翔太に断る理由などない。

「どうぞ。」

 翔太は、自分の布団をわずかにめくって空を迎え入れた。真冬の冷えきった空気が布団の中に入ってきたけど、すぐに布団に入ってきた空のぬくもりへと変わった。翔太の腕の中に入ってきて、空は言った。

「ありがと。」
「どういたしまして。どうしたんですか?緊張しとる?」
「ん。まぁ。ちょっと。」
「空くんでも緊張することあるんですね。」
「お前、失礼だろ。」
「だって・・・空くんはいつも堂々としとるから。」
「引いた?」
「なんで?引くわけないやないですか。空くんのいろんな顔知れて嬉しいです。」
「・・・あっそ。」

 そう言うと空は黙り込んでしまった。心配になって空の顔をのぞき込もうとするけれど、それを阻止するように、空は翔太の胸に顔を埋めた。らしくない空の行動に驚いていた翔太だったが、何も言わずただぎゅっと抱きしめた。

「明日から、頑張りましょうね。」
「・・・うん。」
「空くんは一人ちゃいます。」
「・・・うん。」
「俺も一緒に戦います。もちろんみんなも。」
「・・・・・・うん。」
「おやすみ。空くん。」
「おやすみ。」

 それきり、二人は言葉を交わさなかった。ただただ静かで寒い夜を、二人で身を寄せ合って過ごした。明日から始まる夢の舞台で、チームが勝つために。翔太はもう一度空をぎゅっと抱き寄せると、目を閉じた。