一週間後、空は療養期間を終えて、寮に戻ってきた。それまで毎日のように連絡を取り合っていたが、それでも翔太はいてもたってもいられず、その日の練習が終わると、体育館を飛び出した。息を切らして寮の部屋に飛び込むと、呆れたように笑った空がベッドに座っていた。

「お前、廊下走るなって言われてるだろ。」
「空くん!」
「ふはっ。なんだよ。」
「お、おかえり…」
「うん。ただいま。心配かけて悪かったな。」
「体調は…?」
「熱も結局そんな上がらなかったし、暇してたぐらいだよ。」
「よかった。」

 翔太はほっと胸をなでおろした。たった一週間、されど一週間。たった一人で過ごしたこの部屋はあまりにも静かだった。空がそこにいる。ただそれだけのことが、翔太にとってはこれ以上ないほど大切なことだと実感した。

「明日から部活にも復帰する。」
「大丈夫なん?」
「大丈夫だよ。まぁ、部屋の中でできる筋トレぐらいしかできてないから、体もなまってるだろうし。最初から全部同じことやるのは難しいだろうけど。」
「無理せんといてくださいね。」
「分かってるよ。大丈夫。」

 「大丈夫」と強く言いきった空を見て、翔太も大丈夫だと確信した。春高まであと1ヶ月を切っている。一週間のブランクがあるとはいえ、空の完全復活がなしにして、夕陽ヶ浜学園の全国制覇は難しい。それぐらい、空はバレー部にとっても大切な存在だった。翔太だけでなく、誰もが空の復帰を待ち望んでいた。

「改めて、おかえり。空くん。」
「うん。ただいま。」

 そう言って微笑んだ空をたまらず翔太は抱きしめた。「なんだよ。」と悪態をつく空だったけど、その声は優しくて、翔太はまた嬉しくなった。空とこうして一緒にいられる時間は有限だ。3月になれば、空はここを出て行く。その先、もちろんずっと一緒にいたいと思うけど、どうなるか分からない。だからこそ、今、この時間を目一杯大切にしようと、翔太は改めて心に誓った。