9 12月

 空が熱を出した。12月に入り、いよいよ本格的な冬の到来を感じ始めたころだった。翔太が朝起きると、向かい側のベッドに寝ている空の様子がおかしかった。同じ時間に部屋を出ることが多いので、目覚ましはだいたいどちらかの目覚ましで起きる。それなのに、全く起き上がる気配がない。

「空くん?そろそろ起きなあかん時間です。」
「・・・。」
「どうしたんですか?」

 様子を見るために一歩近づいた翔太に、空が低い声で「来るな」と告げた。いつもの空とは全く違う雰囲気に、翔太も思わず立ち止まってしまう。それでも、やっぱり気になって構わず空のベッドに歩み寄った。翔太が近づいてきたことを感じ取ったのか、空は壁の方へ寝返りをうって、背中を向けてしまった。

「・・・来るなって言っただろ。」
「で、でも・・・気になるし・・・どうしたん?しんどいですか?」
「・・・大丈夫だから、お前は先に行け。」
「でも・・・。」
「ほんとに大丈夫だから。」
「わ、分かりました・・・。」

朝練の時刻が迫っているのは事実だった。翔太は後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。扉を閉めると同時に、空が何度か咳き込んだ。おそらく、風邪を引いたのだろう・・・朝起きたら体調が悪いことに気付いた空が、翔太にうつさないようにするためにきつく言って近づけさせないようにしたことは分かっていた。