簡単に寮での生活や風呂や食堂などの共用施設についての説明を受けた後、寮内を案内された。なるほど、さすが強豪校。施設内にトレーニング施設も完備されており、とても高校生の寮とは思えないほど、充実している。食事も朝夕、専属の管理栄養士の監修の元組まれた献立で、体力勝負な男子高校生たちを支えてくれているという。
「ほんま・・・すごいなぁ・・・」
「ほんとに関西弁だ・・・。」
「え?」
突然隣から声をかけられて、驚いて振り返るとそこにはきらきらと目を輝かせて、興味津々といった様子で翔太を見ている新入生がいた。身長は翔太よりも高い。同じ新入生なはずなのに、恵まれた体格に少し嫉妬する。でも、大きな体に反して、翔太に向ける表情はまだ幼く、悪いやつではないということが感じ取れた。
「俺、大宮龍貴!さっき、自己紹介してるの聞いてて、俺生で関西弁聞いたの初めてだからさぁ!ねぇ、「なんでやねん!」って言ってみてよ!!」
「は?いや、なんも無いのに言わへんやろ。」
「えーいいじゃん!一回だけ!!」
「ちょ、お前うるさいわ。怒られるやろ。」
「そこ!もう少し静かにしろ!」
高山の鋭い注意が聞こえて、翔太と大宮は二人同時に肩をびくつかせる。翔太は小声で「ほれ、見ぃ。」と小言を言ったが、大宮は気にするそぶりもなくニコニコと笑みを浮かべていて、翔太は小さくため息をついた。
その後も、しばらく寮の案内が続き、再びロビーに戻ってきた新入生は、いよいよそれぞれの部屋に分かれることになった。
「誰と相部屋になるかって結構大事じゃない?」
大宮がまた話しかけてくる。
「まぁ、そうやなー。生活を共にする人やしな。合わんかったら辛いな。」
「だよねー・・・」
「まぁ、大宮くん・・・?は大丈夫やろ。誰とでも仲良くなれそうやん。」
「えー龍貴でいいよー!それは、小柳くんも一緒でしょ?」
「俺も翔太でええよ。まぁ、これからよろしく。」
「うん!よろしくね~」
「小柳―!」
その時、斉藤が翔太を呼んだ。翔太が部屋に案内される順番になったのだ。大宮に「じゃあ、また」と告げて、立ち上がる。斉藤に「もう友だちできたの?」と問われ、「まぁ、はい。」と曖昧に答えた。
斉藤と一緒に部屋まで続く廊下を歩く。他愛もない話をしてくれたおかげで、ここに着いたばかりの時に感じていた緊張はすっかりほぐれた。実を言うと、今朝早くに神戸を発ってから、ずっと心細かった。新幹線の中から見える景色は、どんどん変わっていって、それに伴って、地元との距離もどんどん離れていく。ただただ不安でしかなかった。でも、ここでやっていくと決めた。