全日本バレーボール高等学校選手権大会。通称春高バレーは、数多くの有名選手を輩出した、いわば登竜門のような大会である。近年、注目度も高まりつつあり、全国からこの春高に出場するために、数え切れないほどのチームが予選に参加する。

 全国大会に出場するためには、まずはその都道府県内の予選を勝ち進み、出場権利を得る必要がある。そこで出場権を獲得して初めて、全国大会に駒を進めることができるのだ。

 夕陽ヶ浜学園の目標は、全国制覇。これから始まる予選なんかで負けてしまうわけにはいかない。いつも以上にチームの練習には気合いが入っていた。授業が終わるとすぐに部室に駆けだして、一分一秒でも早く練習が開始できるように準備をする。そこから、みっちり練習をして、全体練習が終わった後は自主練習。

「はぁ~疲れた。」

 自主練を終えて、体育館の端に座り込んだ翔太の元にやってきたのは、大宮龍貴。遠慮無く、隣にドカリと座り込んで声をかけてきた。

「小柳、最近調子上がってきたんじゃん。」
「ほんま?お前もいい感じやん。」
「だろ?今度の春高は、全部じゃなくても俺にも絶対出場機会回ってくるって信じてるからさ。」
「それは俺も。」
「だな。それにお前は、目標あるもんな。」
「うん。」
「「日下部空と同じコートに立つ」」

 翔太と大宮の声が重なる。これまで、何度も何度も翔太が口に出してきた。そばでずっと聞いてきた大宮は、呆れつつもそこまで具体的かつまっすぐな目標をもって毎日練習に励む翔太を見て、負けていられないと思ってここまでやってきた。

「それ、日下部さんもつけてた。」

 「それ」と大宮が指さしたのは、翔太のチタンネックレス。あの日から、毎日欠かさずいつけている。効果があるのかないのか、正直よく分からないけれど、空とおそろいというだけで、どんな科学的根拠よりもそのネックレスにはパワーが宿っているような気がした。

「うん。」
「なんか、二人ってほんとに何もないの?」
「ゴホっ」

 突然確信をつかれて、翔太は飲んでいた水うまく飲み込めずにむせてしまった。大宮には、いつか言わねばならないと思っていたが、結局まだ言えずにいた。大宮もなんとなく察しているような気がする。それでも、しつこく聞いてこないことが大宮の優しさでもあった。

「今は言わへん。」
「あっそ。」

 大宮は、それ以上追求しようとせずに、さっさと立ち上がって体育館を出て行った。翔太も後に続く。空はもうすでに部室に引き上げているようだ。いよいよ、春高予選が開幕する。