二人でやってきたのは、大型のスポーツ用品店。デートにスポーツ用品店とは、なんとも色気がないかもしれないけれど、そんなことは二人とも気にしていなかった。翔太は、憧れの空と一緒にバレーボール用品を物色出来る日が来るなんて思ってもみなかったので、願ったり叶ったりだ。

「もうすぐ予選始まりますね。」
「そうだな。」
「空くん、最近また調子上がってきた。」
「・・・お前、俺のこと見すぎ。」
「そうですよ。だって、あとちょっとしかないやん。」

 何気なく言った翔太の言葉に、展示中のシューズを触っていた空の手がピタっと止まった。あと少ししかない。それはその通りだった。もうすぐ春高に向けての予選が始まる。もちろん負けたらそこで終わり。空たち3年生にとっては、正真正銘最後の大会になる。引退までのカウントダウンは、始まっていた。

「・・・そうだな。あとちょっと・・・。」
「・・・空くんもそんなセンチメンタルになることあるんですね。・・・イタっ!」

 空が翔太の腕をぱしりと叩いた。でも、翔太が言うことには一理あった。空はこれまで、良くも悪くもそこまで一つ一つの大会に思い入れがなかった。もちろん適当にやっていたわけではなかったけど、最後だからとか、負けたら終わりだからとか考えずに、とにかく目の前の試合を楽しむことの方が大事だった。

 でも、翔太と出会ってからそれが少しずつ変わってきたように感じていた。例えば夏のインターハイ。空は、怪我をした翔太のために戦った。結果、優勝を翔太に届けることができなくて、なんとも言えない気持ちになった。翔太は出会った頃からずっと、空と一緒にバレーがしたい、同じコートに立ちたいと言い続けてきた。それをずっと聞いてきたからなのか、自分が思っているよりも翔太に惚れ込んでいるからなのかは分からないけれど、空も翔太と一緒に戦いたいといつからか強く思うようになっていた。

 空は相変わらずレギュラーメンバーとしてチームを支えているが、翔太はそうではなかった。入部した頃よりも体力も技術も、そして身長も・・・大きく成長し、調子を上げていることは確かだったが、それでもまだ1年生。強豪チームのレギュラーメンバーになるためには、越えなければならないハードルはまだたくさんあった。たった2年、されど2年という学年差は、二人にとって大きいものだった。

そんな状況でも、翔太は1ミリも空と同じコートに立つことを諦めてはいない。それが分かっているから、空も諦めたくはない。

「春高、がんばりましょね!」
「まずは、予選からだろ。予選で負けちゃ元も子もない。」
「分かってますよ!そんなん当たり前や!」
「ふっ。・・・あ。」

 空の視線の先には、有名なバレーボール選手が試合中につけていることで有名なシリコン製のチタンネックレスがあった。選手がつけている物は、高校生ではまるで手出しができない高級品だが、同じ会社が出している別の製品なら、手が届くお手頃な値段設定である。

(“おそろい”でつけるかって聞いたらなんて言うかな。)

 空はそんなことを考えた自分に驚いた。デートをするかと翔太を誘った時も、翔太がどんな反応をするか見てみたくて、気付けば口に出していた。今回だってきっと、空が提案したら翔太は驚きながらも、まるで犬のように喜んで賛成してくれるだろう。

「あ・・・のさ・・・」
「空くん!」
「え。」
「これ!あの、良かったらおそろいでつけませんか!?」
「えっと・・・」

 まさしく今空が思っていたことを翔太が提案してきた。あまりに同じことを考えすぎていて自分の心の声が漏れていたのかと思うと同時に、先越されたと少しだけ悔しい気持ちになった。でも、どうせ同じことを考えていたんだから、断る理由はどこにもない。

「いいよ。」
「え!いいん!?」
「なんだよ。お前から提案してきたんだろ。」
「や・・・ダメ元やったから・・・」
「いやなら別にいいけど。」
「嫌ちゃう!」
「そ。じゃあ、お互い誕生日近いんだし、お互いに買うっていうのはどう?」

 何気なく提案した空だったが、翔太が口をあんぐり開けて固まっていることに気がついて、「なに。」と尋ねた。

「今日、空くんどうしたん・・・?」
「どうしたんって何が?」
「やって・・・そんな・・・恋人みたいな・・・いや、恋人なんやけど・・・でも・・・」
「悪いかよ。」
「わ、悪くないです!嬉しいです。」

 そう言ってはにかむように笑った翔太を見て、空は柄にもなく自分の鼓動が速まるのが分かった。こんな時に実感してしまう。空は、自分で自覚している以上に翔太に惚れている。