注文したオムライスは、文化祭とは思えないほどのクオリティで、3年生の本気を感じた。翔太たちにとっては初めての文化祭でも、彼らにとっては最後の文化祭なのだ。気合いが入ることにも納得である。気恥ずかしいやり取りさえ乗り越えると、オムライスの味も美味しし、周りの雰囲気も楽しくて、翔太の沈みかけた気分も少し浮上するかと思った。

 しかし、そんな時間も長くは続かなかった。こんな時に限って、嫌なものばかり目に入るのはなぜなのだろう。あっちやこっちや動き回っていた空が、一瞬落ち着いた隙を見て声をかけようと思っていたのに、その瞬間を先ほどお化け屋敷に一緒に来ていたあの女子生徒に奪われてしまった。

 周りが騒がしくて二人が何を話しているのかは分からないが、いかんせん距離が近い。互いの体は触れていないにしても、今にも触れてしまいそうな距離だ。そして何より・・・翔太も空のことを思っているからこそ分かってしまった。彼女は、空のことが好きだ。ほぼ確信してしまった。

「あ、さっきの人だ。ほら、さっきお化け屋敷に来てただろ。あの人。」
「仲よさそうやな。」
「お、小柳もそう思う?意外だよな。日下部さん、恋愛とか興味なさそうだけど。」
「別に、仲いいからって付き合っとるとは限らんやん?」
「それはそうだけどさ。でも、あの人は絶対日下部さんのこと好きだよな。」
「うん。それは分かる。」

 その時、空がこちらを向いた。バチッと目が合う。空が「あ。」と小さく呟いたのが分かった。思わず、目を逸らしてしまった。今は、どんな顔をして空と会ったらいいのか分からない。だけど、時すでに遅し。空は、さっさと歩いてこちらに向かってきた。

「来てたんだ。」
「日下部さん!こんにちは!」

 空が翔太と大宮に声をかけた。大宮は、何の躊躇いもなく元気よくあいさつをする。翔太もそれに続いて「こんにちは。」と小さくあいさつをした。

「翔太?なんかあった?」
「いえ。別になんもないです。」
「・・・。」
「ちょ、小柳。」
「空くん忙しそうやし、俺、これで失礼します。」
「え。翔太?」

 自分の中にあふれる醜い感情の正体はもうとっくに分かっていた。これは紛れもなく“嫉妬”だ。彼女と空の姿を見て、悔しいけどお似合いかも知れないと思ってしまった。男の翔太とではなく、彼女のような恋人がいた方がいいのではないか。そう思ってしまった自分にも腹が立つし、そうは思っても空を譲りたくないという気持ちもあって、もうどんな顔をして空を見ればいいのか分からなかった。とにかく、彼女と空がいるこの空間から逃げ出したい。大宮には悪いと思ったけど、翔太は席を立ち、そのまま一度も振り返らずに、教室を出た。