「あっちぃ……」
「それな……」

 並んで腰掛けた俺の隣で、首もとに流れる汗を拭うこいつの姿に妙な気分にさせられるようになったのはいつからだっただろう。

「せっかくコンビニで涼んできたのに、外に出た途端これだもんなあ?」
「ああ」

 意識を逸らして心を落ち着けようとつい生返事になってしまうのを見透かされているかのように、この目の前にいる男は無邪気な笑顔で距離を詰めてくる。

「アイスうめぇな」
「ああ……」

 そう言いながらアイスキャンディーを舐める仕草も、いちいち意識させられる俺の煩悩に殴りかかってくるから手に負えない。

「うわっ、めっちゃ垂れてくるじゃん」
「……ほら、ティッシュ」
「わー、助かる!」
「ん、もう慣れた」

 そう、こうなることをわかっていていつも毎回同じアイスを食べているから俺もすっかり慣れてしまった。

 ただ、いつまでも慣れないのは――

「はは、いつもありがと」
「ん」

 全く、こっちを見ながら指を舐めるんじゃない! と何度言ってやろうと思ったことか。
 ああ、どうして俺ばかりがこんなにモヤモヤしないといけないんだ。

「お前はさ、舐めるの上手いよな」
「は? ……ああ、そうかもな」

 いちいち言い方が心臓に悪い、いや、俺が気にしているからそう聞こえるだけなのか。

 ああもう、どうして俺ばかり……とぐるぐると考えてみた結果、あるとき俺もこいつと同じアイスキャンディーを買ってみた。
 だけど特にどうということもなく、ただこいつが下手くそなだけだという結論に落ち着いた。

 それでも、この夏の空気感がなんだかいいなと思ったから、それ以来俺もこうして同じアイスを買っている。

「お前のも舐めてやりたくて狙ってるんだけど、マジでガード固いんだよな」
「……は?」
 
「なあ、おまえアイス落としてんぞ」
「あー」

 ほんの数秒の間がスローモーションで過ぎたような気がした次の瞬間、あいつがすっと俺の目の前にあらわれた。
 
 確かに溶けかけていた俺のアイスはボトリと地面に落ちている。
 これはそもそもおまえのせいだと言ってやりたいが、言ってしまえば俺がこいつを意識してるって白状するようなもんだろう。

「ほら、ん」
「んんっ、なっ」

 い、今、こいつに舐められっ……?

「ほら、アイスの味、分けてやるよ」
「えっろ」

 あっ、声に出ちまった。

「だろ? もっとおいしいこと、してもいいんだぜ?」
「……は?」