[一話]
幼い頃から、繰り返し何度も見る夢があった。信じてた人達全員に裏切られ、辛くて苦しいどん底に突き落とされる。その暗い場所はどこかの部屋のような場所にも見える。
当たり前だと分かっていたけれど、そんな真っ暗な場所に手を差し伸べてくれる人なんて一人もいなくって。
それでも誰かが引っ張ってくれるかも、救ってくれるかもしれないと思いを抱いて必死に上へ上へと手を伸ばす。だからと言って誰かが手を掴んでくれることは無かった。
きっと、誰だってうちがどん底に落とされたことなんて知らないし興味もないのだ。
そして、もう十分ボロボロな状態のうちに追い打ちをかけるようにうちの記憶の中に存在する知らない誰かに冷めた表情と鋭利な言葉を向けられて傷つけられる。心をズタズタに引き裂かれてしまう。
夢だって分かってるのに、何度も聞いた言葉なのに。なのに、どうしてこんなに苦しいの……?
『何で普通にできないの!』
普通って、何……?どうすれば普通になれるの?
『何で何もできないの? 何度も教えたのに何で覚えてないの?』
うちだって何も出来ない自分が嫌だよ。頑張ってるのに、何度も何度も繰り返してノートに書き綴って覚えようとしてるのに何一つ覚えられないの。それがそんなにもいけない事なの?怒鳴られるほど怒られないといけないほどの悪いことなの?
『泣いてたって何も出来ないだろ。』
そんな事、うちが一番分かってるのに。泣きたくなんて無いし、泣いたってどうにもならないなんて分かってる。分かってるからこそ、グサグサ心に刺さってくる。
だけど、実際にその声に反論する勇気なんてうちには無い。心の中で靄を抱えてずっと泣きながら謝る事だけしかできない。
目の前がぐるぐる回って、息の仕方を忘れてしまうような感覚にはもう慣れてしまった。慣れてしまったとしても息苦しさは止まらない。止まらないだけでは収まらない位どんどん悪くなっている。
嫌だよ……誰か、助けて……!
「……お、奈音!」
名前を呼ばれて目が覚めた。瞼を開くとぼんやりと双子の姉が見えた。妙に重たい自分の身体を起こす。
心音がバクバクと今にも破裂しそうな音を立てている事に気付いた。
「ゆず、な……?」
「奈音ってばまた魘されてたよ?」
柚凪が心配そうな顔で、うちの顔をじっと見詰めている。どうしたのかとぼーっと見詰め返していると、突然強く抱き締められた。急に抱擁されたのにびっくりして、びくっと体が跳ねてしまった。
優しく撫でられていると、徐々に不安に覆われてボロボロになった心が安心で満たされていく。
「ゆ……柚凪ぁ……」
安心感で満たされて、ずっと我慢していた涙が止めどなく溢れ出す。
「大丈夫だよ、俺は奈音のこと大好きだから。絶対に見捨てたり傷つけたりしないから」
柚凪と居ると否定されてきた人生を全肯定されているような、救われていくような気持ちになる。
うちと柚凪には、堂々と胸を張って言える仲の良さと信頼関係がある。お互い唯一無二の欠けてはならない存在なのだ。
こんなにもうちに沢山愛情を注いでくれたのはお父さんでもお母さんでもなく柚凪だと思う。
暫く柚凪に縋って泣いて、ようやく落ち着いてきた。呼吸が整うと心拍数も正常に戻り、普通に呼吸も出来るようになった。
「落ち着いた?」
「うん、だいぶ落ち着いた」
「じゃあ朝食出来てるから、下行こ!」
柚凪はうちにニコッと笑いかけて、うちの手を引く。
もしもこの人と双子にならなかったら、うちはもう人生全てを諦めてたな。
優しくて元気。それでいて成績優秀。うちはそんな姉を誇りに思っている。
一階に降りると直ぐに、柚凪はキッチンの方へ走っていった。
「お味噌汁温めてくるね」
「うん」
リビングのテーブルの上には、卵焼きと昨日の夕飯の残り、おむすびが並んでいる。柚凪は早起きが苦手だった癖に、うちの為に毎日欠かさずご飯を作ってくれる。
気遣いの塊だなぁ、と他人事のように感心する。
ふと、今日英単語と社会の小テストがあったことを思い出した。
「あっ、そういえば今日英単語の小テストだったよね」
「えっ⁉︎ 全然勉強してない!」
柚凪が小テストの勉強してないなんて珍しい。いつもは完璧にこなしてるのに、驚きが隠せない。
この様子では社会も忘れているのではと恐る恐る聞いてみた。
「もしかしてだけど……社会も?」
「え、社会もあったの⁉︎」
「うん、前回の小テストが範囲」
「待って、それ捨てたかも」
「えぇ……?」
「……あぁ、もう無理だぁ……」
うちはおむすびを頬張りながら苦笑した。
何にせよ、柚凪は勉強しないでも再テストにはならないから良いんだよ。うちは勉強してようやく再テストを免れるくらいなのに。
暗い気持ちが出てきて、心がもやもやしてきた。これ以上この事を考えてたらまたしんどくなりそうだからもう考えるのは辞めよう。
「はい、お味噌汁温まったよ!」
柚凪から、うちは温かいお椀を受け取った。
「ありがと!」
教室のドアを開ける。うちと柚凪が所属しているこのクラスはいつも朝だろうが昼だろうが関係なく常に騒がしい。騒がしすぎるのは嫌いだけど、物音一つ聞こえない静かさよりかはこのくらいの方が安心できる。
「おはよ、三浦。小テスト勉強した?」
「してない」
「したよ?」
クラスメイトの花城に話しかけられて、うちと柚凪は同時に答えた。花城は他の人には優しいのに、ゆずには喧嘩を売っていくスタイルの謎な男だ。でも偶に不安になるくらい無表情で目が死んでいる。
「なーは相変わらず偉いなぁ、それに比べてゆずは馬鹿」
「ふっ、くっ……」
なー、というのはうちの。ゆず、というのは柚凪の愛称。名字だけで呼ばれると区別がつかずにうちも柚凪も反応してしまって手間がかかるから学校では愛称で定着している。クラスメイトも友達も皆この呼び方をしている。
そう柚凪を煽る花城の隣ではクラスのお調子者の如月が笑いを必死に堪えている。
「は? 忘れてただけですけど?」
柚凪は笑顔だった。びっくりするような満面の笑み。目は全く笑ってないけど。一見穏やかそうに見える柚凪でも、地雷を踏まれると即爆発する。柚凪は沸点が低くて、本当に些細な事で激怒する。
穏やかなのは黙っていれば、というやつだ。
「再テストになれば良いねぇ」
「本当最低」
特に花城と如月とはよくバチバチ争っている柚凪の姿を見る。それは普通に花城達が煽るのが悪いと思う。まぁ喧嘩を買う柚凪も柚凪か。
「なー! おはよう!」
苦笑して柚凪のことを見ていると、いつの間にか友達の蘭菜と水雫が隣に立っていた。
「蘭菜、水雫! おはよ!」
「またゆず達喧嘩してるねぇ」
「ね〜……そういえば今日、蘭菜も水雫も珍しく遅かったね」
「そうそう、家出るの遅くなっちゃって」
三人で穏やかな会話を繰り広げていると、柚凪が蘭菜達が来たことに気づいたのか、ぱっと顔を輝かせて戻ってきた。柚凪は仲の良い女の子には本当に甘い。柚凪がうちに甘すぎて反射的にはたいてしまう事も多々ある。
柚凪には『シスコン』という言葉が相応しい。
「蘭菜、水雫! おはよっ!」
さっき花城と如月にキレてた表情とは別人かと思うくらい満足気でご機嫌な柚凪を見て如月が呆れたように呟く。
「ゆず、女好き過ぎじゃん?」
柚凪は何も言わずに蘭菜に抱きついた。如月の嫌味が聞こえなかったのかと思ったら、蘭菜にそ抱きついたまま振り向いて如月を睨みつけていた。
「もう朝から疲れたよ、また煽られてさぁ」
「喧嘩買わなかったらいいのに」
水雫は真っ当な突っ込みをいれる。その通りだとは思う。煽られても喧嘩買わなかったら疲れることも無い。平和に終わる事が出来る。
「いやなんか、腹立って……」
「たまには我慢しなって!」
「うぅ……」
うちが柚凪に注意をすると、柚凪は少し凹み、反省して一時間は大人しくなる。けど一時間も過ぎれば注意された事を忘れて元に戻る。良く言えばタフで、悪く言えば単純。
さっき、相手は花城だけど……久しぶりに偉いなんて褒められて少しだけ嬉しいと思ってしまった。
「席つけ、ホームルーム始めるぞー」
担任が教室に入ってきて、声を張り上げる。ざわついていた教室は少しづつ静かになって皆自分の席に帰っていく。
「おし、じゃあ今日の連絡事項はー」
手元のプリントに書いてある連絡事項を担任は淡々と読んでいく。うちはいつもこの時間はいつもぼーっとしてしまう。
連絡事項なんてほぼ大事なことは無い。あったとしても蘭菜に聞けば良い。うちは優等生で真面目な委員長の蘭菜に頼ってしまう悪い癖がある。
水雫は優しいし、蘭菜は全て完璧で、花城と如月の絡みは面白いし、柚凪はうちの事を守ってくれる。家庭だって普通の穏やかな幸せな家庭だし、学校の治安も悪くなんてない。友人関係に困ってるわけでも、恋愛関係でも困ってなんかいない。
うちは恵まれている。こんなにも恵まれてるのに、幸せなのに。特にこれと言った悩みがあるわけでもない。
それなのにどうしてこんなに苦しいんだろう……。
幼い頃から、繰り返し何度も見る夢があった。信じてた人達全員に裏切られ、辛くて苦しいどん底に突き落とされる。その暗い場所はどこかの部屋のような場所にも見える。
当たり前だと分かっていたけれど、そんな真っ暗な場所に手を差し伸べてくれる人なんて一人もいなくって。
それでも誰かが引っ張ってくれるかも、救ってくれるかもしれないと思いを抱いて必死に上へ上へと手を伸ばす。だからと言って誰かが手を掴んでくれることは無かった。
きっと、誰だってうちがどん底に落とされたことなんて知らないし興味もないのだ。
そして、もう十分ボロボロな状態のうちに追い打ちをかけるようにうちの記憶の中に存在する知らない誰かに冷めた表情と鋭利な言葉を向けられて傷つけられる。心をズタズタに引き裂かれてしまう。
夢だって分かってるのに、何度も聞いた言葉なのに。なのに、どうしてこんなに苦しいの……?
『何で普通にできないの!』
普通って、何……?どうすれば普通になれるの?
『何で何もできないの? 何度も教えたのに何で覚えてないの?』
うちだって何も出来ない自分が嫌だよ。頑張ってるのに、何度も何度も繰り返してノートに書き綴って覚えようとしてるのに何一つ覚えられないの。それがそんなにもいけない事なの?怒鳴られるほど怒られないといけないほどの悪いことなの?
『泣いてたって何も出来ないだろ。』
そんな事、うちが一番分かってるのに。泣きたくなんて無いし、泣いたってどうにもならないなんて分かってる。分かってるからこそ、グサグサ心に刺さってくる。
だけど、実際にその声に反論する勇気なんてうちには無い。心の中で靄を抱えてずっと泣きながら謝る事だけしかできない。
目の前がぐるぐる回って、息の仕方を忘れてしまうような感覚にはもう慣れてしまった。慣れてしまったとしても息苦しさは止まらない。止まらないだけでは収まらない位どんどん悪くなっている。
嫌だよ……誰か、助けて……!
「……お、奈音!」
名前を呼ばれて目が覚めた。瞼を開くとぼんやりと双子の姉が見えた。妙に重たい自分の身体を起こす。
心音がバクバクと今にも破裂しそうな音を立てている事に気付いた。
「ゆず、な……?」
「奈音ってばまた魘されてたよ?」
柚凪が心配そうな顔で、うちの顔をじっと見詰めている。どうしたのかとぼーっと見詰め返していると、突然強く抱き締められた。急に抱擁されたのにびっくりして、びくっと体が跳ねてしまった。
優しく撫でられていると、徐々に不安に覆われてボロボロになった心が安心で満たされていく。
「ゆ……柚凪ぁ……」
安心感で満たされて、ずっと我慢していた涙が止めどなく溢れ出す。
「大丈夫だよ、俺は奈音のこと大好きだから。絶対に見捨てたり傷つけたりしないから」
柚凪と居ると否定されてきた人生を全肯定されているような、救われていくような気持ちになる。
うちと柚凪には、堂々と胸を張って言える仲の良さと信頼関係がある。お互い唯一無二の欠けてはならない存在なのだ。
こんなにもうちに沢山愛情を注いでくれたのはお父さんでもお母さんでもなく柚凪だと思う。
暫く柚凪に縋って泣いて、ようやく落ち着いてきた。呼吸が整うと心拍数も正常に戻り、普通に呼吸も出来るようになった。
「落ち着いた?」
「うん、だいぶ落ち着いた」
「じゃあ朝食出来てるから、下行こ!」
柚凪はうちにニコッと笑いかけて、うちの手を引く。
もしもこの人と双子にならなかったら、うちはもう人生全てを諦めてたな。
優しくて元気。それでいて成績優秀。うちはそんな姉を誇りに思っている。
一階に降りると直ぐに、柚凪はキッチンの方へ走っていった。
「お味噌汁温めてくるね」
「うん」
リビングのテーブルの上には、卵焼きと昨日の夕飯の残り、おむすびが並んでいる。柚凪は早起きが苦手だった癖に、うちの為に毎日欠かさずご飯を作ってくれる。
気遣いの塊だなぁ、と他人事のように感心する。
ふと、今日英単語と社会の小テストがあったことを思い出した。
「あっ、そういえば今日英単語の小テストだったよね」
「えっ⁉︎ 全然勉強してない!」
柚凪が小テストの勉強してないなんて珍しい。いつもは完璧にこなしてるのに、驚きが隠せない。
この様子では社会も忘れているのではと恐る恐る聞いてみた。
「もしかしてだけど……社会も?」
「え、社会もあったの⁉︎」
「うん、前回の小テストが範囲」
「待って、それ捨てたかも」
「えぇ……?」
「……あぁ、もう無理だぁ……」
うちはおむすびを頬張りながら苦笑した。
何にせよ、柚凪は勉強しないでも再テストにはならないから良いんだよ。うちは勉強してようやく再テストを免れるくらいなのに。
暗い気持ちが出てきて、心がもやもやしてきた。これ以上この事を考えてたらまたしんどくなりそうだからもう考えるのは辞めよう。
「はい、お味噌汁温まったよ!」
柚凪から、うちは温かいお椀を受け取った。
「ありがと!」
教室のドアを開ける。うちと柚凪が所属しているこのクラスはいつも朝だろうが昼だろうが関係なく常に騒がしい。騒がしすぎるのは嫌いだけど、物音一つ聞こえない静かさよりかはこのくらいの方が安心できる。
「おはよ、三浦。小テスト勉強した?」
「してない」
「したよ?」
クラスメイトの花城に話しかけられて、うちと柚凪は同時に答えた。花城は他の人には優しいのに、ゆずには喧嘩を売っていくスタイルの謎な男だ。でも偶に不安になるくらい無表情で目が死んでいる。
「なーは相変わらず偉いなぁ、それに比べてゆずは馬鹿」
「ふっ、くっ……」
なー、というのはうちの。ゆず、というのは柚凪の愛称。名字だけで呼ばれると区別がつかずにうちも柚凪も反応してしまって手間がかかるから学校では愛称で定着している。クラスメイトも友達も皆この呼び方をしている。
そう柚凪を煽る花城の隣ではクラスのお調子者の如月が笑いを必死に堪えている。
「は? 忘れてただけですけど?」
柚凪は笑顔だった。びっくりするような満面の笑み。目は全く笑ってないけど。一見穏やかそうに見える柚凪でも、地雷を踏まれると即爆発する。柚凪は沸点が低くて、本当に些細な事で激怒する。
穏やかなのは黙っていれば、というやつだ。
「再テストになれば良いねぇ」
「本当最低」
特に花城と如月とはよくバチバチ争っている柚凪の姿を見る。それは普通に花城達が煽るのが悪いと思う。まぁ喧嘩を買う柚凪も柚凪か。
「なー! おはよう!」
苦笑して柚凪のことを見ていると、いつの間にか友達の蘭菜と水雫が隣に立っていた。
「蘭菜、水雫! おはよ!」
「またゆず達喧嘩してるねぇ」
「ね〜……そういえば今日、蘭菜も水雫も珍しく遅かったね」
「そうそう、家出るの遅くなっちゃって」
三人で穏やかな会話を繰り広げていると、柚凪が蘭菜達が来たことに気づいたのか、ぱっと顔を輝かせて戻ってきた。柚凪は仲の良い女の子には本当に甘い。柚凪がうちに甘すぎて反射的にはたいてしまう事も多々ある。
柚凪には『シスコン』という言葉が相応しい。
「蘭菜、水雫! おはよっ!」
さっき花城と如月にキレてた表情とは別人かと思うくらい満足気でご機嫌な柚凪を見て如月が呆れたように呟く。
「ゆず、女好き過ぎじゃん?」
柚凪は何も言わずに蘭菜に抱きついた。如月の嫌味が聞こえなかったのかと思ったら、蘭菜にそ抱きついたまま振り向いて如月を睨みつけていた。
「もう朝から疲れたよ、また煽られてさぁ」
「喧嘩買わなかったらいいのに」
水雫は真っ当な突っ込みをいれる。その通りだとは思う。煽られても喧嘩買わなかったら疲れることも無い。平和に終わる事が出来る。
「いやなんか、腹立って……」
「たまには我慢しなって!」
「うぅ……」
うちが柚凪に注意をすると、柚凪は少し凹み、反省して一時間は大人しくなる。けど一時間も過ぎれば注意された事を忘れて元に戻る。良く言えばタフで、悪く言えば単純。
さっき、相手は花城だけど……久しぶりに偉いなんて褒められて少しだけ嬉しいと思ってしまった。
「席つけ、ホームルーム始めるぞー」
担任が教室に入ってきて、声を張り上げる。ざわついていた教室は少しづつ静かになって皆自分の席に帰っていく。
「おし、じゃあ今日の連絡事項はー」
手元のプリントに書いてある連絡事項を担任は淡々と読んでいく。うちはいつもこの時間はいつもぼーっとしてしまう。
連絡事項なんてほぼ大事なことは無い。あったとしても蘭菜に聞けば良い。うちは優等生で真面目な委員長の蘭菜に頼ってしまう悪い癖がある。
水雫は優しいし、蘭菜は全て完璧で、花城と如月の絡みは面白いし、柚凪はうちの事を守ってくれる。家庭だって普通の穏やかな幸せな家庭だし、学校の治安も悪くなんてない。友人関係に困ってるわけでも、恋愛関係でも困ってなんかいない。
うちは恵まれている。こんなにも恵まれてるのに、幸せなのに。特にこれと言った悩みがあるわけでもない。
それなのにどうしてこんなに苦しいんだろう……。