[十四話]
『次は、終点〜終点です』
そのアナウンスが耳に入って、うちは目が覚めた。もう外は真っ暗。
うちはうっかり寝てしまっていた。寝過ごして、終点まで乗って来てしまっていた。
隣でガバッと佐藤も立ち上がる。まさか佐藤も寝ていたのだろうか。二人して寝てしまっていたなんて、焦るのをも通り越して笑ってしまう。
「寝過ごした」
佐藤は寝起き丸わかりの顔で目を擦る。
終点まで来たのは初めてだなぁと思って窓の外を見つめる。どこかで見たことがあるような気がする。
どこにでもあるようなコンビニやファストフード店があるから、見たことがあるってだけなのかもしれないけど。
まぁそれよりもこれからわざわざ電車に乗って帰らないといけないんだと思うと憂鬱になってくる。つい寝落ちしてしまった自分を恨む。
プシューッと電車の急ブレーキの音が耳に入る。
「あれ?ここって…….」
ホームに降りて、ようやく納得出来た。
「ん?」
聞き馴染んでいる駅の地名、暗闇の中微かに見覚えのある景色。
うちが中学二年生の時、まだ柚凪達と一緒だった頃に住んでいた町だ。
凄く懐かしさを感じて、うちは少し寄ってみたくなった。でもただでさえこんなに遅くまで付き合わせてしまっているのに佐藤まで着いて来させるのは申し訳ない。それに、そもそも着いてきてもくれないだろう。
「ごめん、先帰ってて」
「え、送ってこうと思ってたんだけど?」
同じ町に住んでいるわけでもないのに、行きも帰りも送ってもらうなんて。そんなの申し訳なさすぎる。
「ここ、知ってる場所だったから寄って行きたくて……遅くなっちゃうかもだし先に帰ってもらおうかと思って」
うちは思った通りの事を言った。こんな所で嘘をつく必要もないだろう。
佐藤は「わかった」と言うかと思っていたけど、うちの予想とは違う返答だった。
「俺は着いてっちゃダメなやつ?」
「いや、それは良いんだけど」
佐藤が着いてくる事に対しては何も問題無い。ただ、懐かしい思い出の場所とか中学校とかを見に行きたいだけだから。だけど、佐藤は楽しくも無いだろうし、迷惑じゃ無いか少し不安になる。
「けど?」
「……迷惑かなって」
「迷惑だったら、そもそも俺行かないし」
確かに佐藤は素直だから、行きたく無い時は行きたく無いとはっきり言う筈だ。まだ少し申し訳ないけど、お言葉に甘えてついてきてもらう事にしよう。
家も中学校も何も変わってなかった。家にはお母さんの車が停まっていて、まだこの家に柚凪と二人で住んでいるんだなと実感した。柚凪と変わらず一緒にいられるお母さんが羨ましい。
だけど、いい加減もう忘れなきゃな。いつまでも未練がましく柚凪柚凪なんて言ってても困るのは自分だ。
ふぅっと息を吐き出すと、それがそのまま真っ白になって目に映る。ひたすら、冬場で外を歩いているから段々冷えてきたからコンビニで何か暖を取れるものを買う事にした。
うちはコンビニで暖かいココアを買った。佐藤はカイロを買ったようでシャカシャカ振っている。
「あ、そうそう!ここからめっちゃ近くにうちが家出した公園があるんだ!」
「えぇ?家出した公園……?」
「そうなんだよ、懐かしいなぁ」
公園が見えてきた。ブランコくらいしか無い公園だった筈なのに、いつの間にか新しい遊具、ベンチやテーブルなども増えている。
「こんなとこに家出してきてたのかよ」
うちはぐっと佐藤に向けて親指を立てる。佐藤は苦笑して、公園を見渡した。
「てか、あそこの人らこんな寒い中公園でアイス食ってね?」
佐藤の指差した方を向くと、確かにアイスをベンチで食べている集団がいた。こんな寒い中アイスを食べるなんて……きっと風邪を引く。
「ただのアホじゃん」
だいぶ普通の音量で、平然とディスった。つい笑ってしまいそうになるけど、もしも、アイスを食べてる集団の人がちょっとヤンキーみたいだったらきっと絡まれてしまう。
「ちょ、佐藤聞こえるって」
うちは慌てて佐藤を止めた。でももう遅かったみたいで。
「何? 俺らの事?」
佐藤の声が聞こえていたのか柄の悪い男がベンチから立ち上がってこっちに来た。その男にジロっと睨みつけられて、ひゅっと息を呑む。
そんなうちを見て佐藤が前に出てくれた。佐藤はうちの前に腕を出して、うちを庇おうとしてくれている。
「えぇ、めっちゃ柄悪っ……」
「お前喧嘩売ってんのか?」
「売ってないって……まぁ、そっちがやる気なら買うけど」
バチバチと火花を散らしているように、佐藤と男はじっと見つめ合っていた。
そして、男が佐藤に殴りかかってきた──と思ったら佐藤は素早く男の手を掴んで男の体に蹴りを入れた。男はそのままダメージを食らってガクッと膝から崩れ落ちた。
「佐藤強っ⁉︎」
「いや、こいつが弱いんだよ」
佐藤が強いのか、喧嘩をふっかけてきた男が弱いのかはわからないけどひとまず安心だ。
「本当にご迷惑をおかけして……って、なー?」
向こうからもう一人の男がやってきた。無表情の中に呆れが混じったようなその顔には見覚えがあった。
なーというあだ名を知っている、無表情な男子といえば一人しかいない。
「あっ、花城⁉︎」
「え、やっぱり?」
「と言う事は、これは如月?」
うちの言葉にびっくりしたようで、殴りかかってきた如月は顔を上げた。
「えっ、なーだったの⁉︎」
確かによくよく見れば、如月の面影はある。花城は全く変わっていなかったからすぐわかった。
あれからずっとメッセージは繋がったままだったけど、何か送る事も無かった。柚凪とは喧嘩したきり疎遠になっていたから気まずかったと言うのもある。最後にメンバーと話したのは転校する日だったと思う。
まさかの奇跡が起こった。こんな所で、こんな風な再会を果たすなんて思っていなかったからどんな形であれ、あのメンバーと再び会えた事が嬉しくて仕方無かった。
そんな中、花城はさっき座っていたベンチの方に声を張った。
「おーい、一ノ瀬、朝比奈〜」
「えっ、蘭菜も水雫もいるの⁉︎」
向こうから二人が走ってきて、うちの顔を見るなり驚いた。
「え!なー⁉︎」
「久しぶり」
蘭菜はフワッとカールさせた髪を短く切っていて、水雫は前よりも髪の長さは伸びていた。二人とも、大人っぽいという印象だった。
会わないうちにこんなにも変わるものなのだとびっくりした。
「ってことは、柚凪も……」
「あぁ、ゆずは今居ないよ」
少しでも期待しなかった方が良かったのかもしれない。そんなに奇跡が連続で続くはずもないか。仕方ないと自分に言い聞かせて諦める。喧嘩したまま離れて、再会してもそんなに喜べないだろうし。
「なんか、受験シーズンになってからお母さんが厳しくなったらしいね」
「今日も行きたいって言ってたけどお母さんに怒られたんだと」
柚凪の進路は知らないけど、お母さんの事だから勉強に関する事は厳しくされていたんだと思う。試験前に遊びに行くというだけでも嫌そうにしていたのに、将来がかかっている受験前にだったらきっと激怒しそうに思える。
柚凪は大変だなぁ。気の毒だ。
「えーっと……三浦、こん中だと俺邪魔じゃね?」
「あ、え、そんな事ないよ⁉︎ごめん!」
佐藤は放っておいたまま、ずっとうち達だけが盛り上がっていた事に気付いていなかった。全く佐藤の存在を意識していなかった。
久しぶりに会う皆と一緒に話していると、時が戻ったような気持ちを催されてしまう。あの時、一緒にいれなかった分はしゃいでしまうのは仕方ないと思いたい。
「なー、そいつ誰? 彼氏?」
「違っ、彼氏じゃない!」
如月にまで、佐藤を彼氏だと言われるなんてびっくりした。でも佐藤は彼氏なんかじゃないし、佐藤の前でそう言う事を聞かれると佐藤が嫌な思いをするかもしれないからちょっと辞めてほしい。
「ごめんね、この人は……」
「佐藤湊です」
「あ、俺は如月優雨。この人と中学が同じだったんだよ〜」
「花城大志、後は如月と一緒です」
「一ノ瀬蘭菜です、宜しくお願いします!」
「朝比奈水雫です」
佐藤が自己紹介をすると、次々に自己紹介が始まった。如月は軽いままだけど、花城はどこか丸くなったような人間味を帯びているように変わった。蘭菜は丁寧で、水雫は簡潔。
もし、うちがずっと柚凪達と一緒だったなら。もしも、佐藤もこのメンバーの中に居たなら。きっとそんな幸せな事は無いだろうと思う。まぁでも、もしもを考えても何も変わらないのだから仕方がない。
だから今は、素直に再会を喜ぶことにした。
『次は、終点〜終点です』
そのアナウンスが耳に入って、うちは目が覚めた。もう外は真っ暗。
うちはうっかり寝てしまっていた。寝過ごして、終点まで乗って来てしまっていた。
隣でガバッと佐藤も立ち上がる。まさか佐藤も寝ていたのだろうか。二人して寝てしまっていたなんて、焦るのをも通り越して笑ってしまう。
「寝過ごした」
佐藤は寝起き丸わかりの顔で目を擦る。
終点まで来たのは初めてだなぁと思って窓の外を見つめる。どこかで見たことがあるような気がする。
どこにでもあるようなコンビニやファストフード店があるから、見たことがあるってだけなのかもしれないけど。
まぁそれよりもこれからわざわざ電車に乗って帰らないといけないんだと思うと憂鬱になってくる。つい寝落ちしてしまった自分を恨む。
プシューッと電車の急ブレーキの音が耳に入る。
「あれ?ここって…….」
ホームに降りて、ようやく納得出来た。
「ん?」
聞き馴染んでいる駅の地名、暗闇の中微かに見覚えのある景色。
うちが中学二年生の時、まだ柚凪達と一緒だった頃に住んでいた町だ。
凄く懐かしさを感じて、うちは少し寄ってみたくなった。でもただでさえこんなに遅くまで付き合わせてしまっているのに佐藤まで着いて来させるのは申し訳ない。それに、そもそも着いてきてもくれないだろう。
「ごめん、先帰ってて」
「え、送ってこうと思ってたんだけど?」
同じ町に住んでいるわけでもないのに、行きも帰りも送ってもらうなんて。そんなの申し訳なさすぎる。
「ここ、知ってる場所だったから寄って行きたくて……遅くなっちゃうかもだし先に帰ってもらおうかと思って」
うちは思った通りの事を言った。こんな所で嘘をつく必要もないだろう。
佐藤は「わかった」と言うかと思っていたけど、うちの予想とは違う返答だった。
「俺は着いてっちゃダメなやつ?」
「いや、それは良いんだけど」
佐藤が着いてくる事に対しては何も問題無い。ただ、懐かしい思い出の場所とか中学校とかを見に行きたいだけだから。だけど、佐藤は楽しくも無いだろうし、迷惑じゃ無いか少し不安になる。
「けど?」
「……迷惑かなって」
「迷惑だったら、そもそも俺行かないし」
確かに佐藤は素直だから、行きたく無い時は行きたく無いとはっきり言う筈だ。まだ少し申し訳ないけど、お言葉に甘えてついてきてもらう事にしよう。
家も中学校も何も変わってなかった。家にはお母さんの車が停まっていて、まだこの家に柚凪と二人で住んでいるんだなと実感した。柚凪と変わらず一緒にいられるお母さんが羨ましい。
だけど、いい加減もう忘れなきゃな。いつまでも未練がましく柚凪柚凪なんて言ってても困るのは自分だ。
ふぅっと息を吐き出すと、それがそのまま真っ白になって目に映る。ひたすら、冬場で外を歩いているから段々冷えてきたからコンビニで何か暖を取れるものを買う事にした。
うちはコンビニで暖かいココアを買った。佐藤はカイロを買ったようでシャカシャカ振っている。
「あ、そうそう!ここからめっちゃ近くにうちが家出した公園があるんだ!」
「えぇ?家出した公園……?」
「そうなんだよ、懐かしいなぁ」
公園が見えてきた。ブランコくらいしか無い公園だった筈なのに、いつの間にか新しい遊具、ベンチやテーブルなども増えている。
「こんなとこに家出してきてたのかよ」
うちはぐっと佐藤に向けて親指を立てる。佐藤は苦笑して、公園を見渡した。
「てか、あそこの人らこんな寒い中公園でアイス食ってね?」
佐藤の指差した方を向くと、確かにアイスをベンチで食べている集団がいた。こんな寒い中アイスを食べるなんて……きっと風邪を引く。
「ただのアホじゃん」
だいぶ普通の音量で、平然とディスった。つい笑ってしまいそうになるけど、もしも、アイスを食べてる集団の人がちょっとヤンキーみたいだったらきっと絡まれてしまう。
「ちょ、佐藤聞こえるって」
うちは慌てて佐藤を止めた。でももう遅かったみたいで。
「何? 俺らの事?」
佐藤の声が聞こえていたのか柄の悪い男がベンチから立ち上がってこっちに来た。その男にジロっと睨みつけられて、ひゅっと息を呑む。
そんなうちを見て佐藤が前に出てくれた。佐藤はうちの前に腕を出して、うちを庇おうとしてくれている。
「えぇ、めっちゃ柄悪っ……」
「お前喧嘩売ってんのか?」
「売ってないって……まぁ、そっちがやる気なら買うけど」
バチバチと火花を散らしているように、佐藤と男はじっと見つめ合っていた。
そして、男が佐藤に殴りかかってきた──と思ったら佐藤は素早く男の手を掴んで男の体に蹴りを入れた。男はそのままダメージを食らってガクッと膝から崩れ落ちた。
「佐藤強っ⁉︎」
「いや、こいつが弱いんだよ」
佐藤が強いのか、喧嘩をふっかけてきた男が弱いのかはわからないけどひとまず安心だ。
「本当にご迷惑をおかけして……って、なー?」
向こうからもう一人の男がやってきた。無表情の中に呆れが混じったようなその顔には見覚えがあった。
なーというあだ名を知っている、無表情な男子といえば一人しかいない。
「あっ、花城⁉︎」
「え、やっぱり?」
「と言う事は、これは如月?」
うちの言葉にびっくりしたようで、殴りかかってきた如月は顔を上げた。
「えっ、なーだったの⁉︎」
確かによくよく見れば、如月の面影はある。花城は全く変わっていなかったからすぐわかった。
あれからずっとメッセージは繋がったままだったけど、何か送る事も無かった。柚凪とは喧嘩したきり疎遠になっていたから気まずかったと言うのもある。最後にメンバーと話したのは転校する日だったと思う。
まさかの奇跡が起こった。こんな所で、こんな風な再会を果たすなんて思っていなかったからどんな形であれ、あのメンバーと再び会えた事が嬉しくて仕方無かった。
そんな中、花城はさっき座っていたベンチの方に声を張った。
「おーい、一ノ瀬、朝比奈〜」
「えっ、蘭菜も水雫もいるの⁉︎」
向こうから二人が走ってきて、うちの顔を見るなり驚いた。
「え!なー⁉︎」
「久しぶり」
蘭菜はフワッとカールさせた髪を短く切っていて、水雫は前よりも髪の長さは伸びていた。二人とも、大人っぽいという印象だった。
会わないうちにこんなにも変わるものなのだとびっくりした。
「ってことは、柚凪も……」
「あぁ、ゆずは今居ないよ」
少しでも期待しなかった方が良かったのかもしれない。そんなに奇跡が連続で続くはずもないか。仕方ないと自分に言い聞かせて諦める。喧嘩したまま離れて、再会してもそんなに喜べないだろうし。
「なんか、受験シーズンになってからお母さんが厳しくなったらしいね」
「今日も行きたいって言ってたけどお母さんに怒られたんだと」
柚凪の進路は知らないけど、お母さんの事だから勉強に関する事は厳しくされていたんだと思う。試験前に遊びに行くというだけでも嫌そうにしていたのに、将来がかかっている受験前にだったらきっと激怒しそうに思える。
柚凪は大変だなぁ。気の毒だ。
「えーっと……三浦、こん中だと俺邪魔じゃね?」
「あ、え、そんな事ないよ⁉︎ごめん!」
佐藤は放っておいたまま、ずっとうち達だけが盛り上がっていた事に気付いていなかった。全く佐藤の存在を意識していなかった。
久しぶりに会う皆と一緒に話していると、時が戻ったような気持ちを催されてしまう。あの時、一緒にいれなかった分はしゃいでしまうのは仕方ないと思いたい。
「なー、そいつ誰? 彼氏?」
「違っ、彼氏じゃない!」
如月にまで、佐藤を彼氏だと言われるなんてびっくりした。でも佐藤は彼氏なんかじゃないし、佐藤の前でそう言う事を聞かれると佐藤が嫌な思いをするかもしれないからちょっと辞めてほしい。
「ごめんね、この人は……」
「佐藤湊です」
「あ、俺は如月優雨。この人と中学が同じだったんだよ〜」
「花城大志、後は如月と一緒です」
「一ノ瀬蘭菜です、宜しくお願いします!」
「朝比奈水雫です」
佐藤が自己紹介をすると、次々に自己紹介が始まった。如月は軽いままだけど、花城はどこか丸くなったような人間味を帯びているように変わった。蘭菜は丁寧で、水雫は簡潔。
もし、うちがずっと柚凪達と一緒だったなら。もしも、佐藤もこのメンバーの中に居たなら。きっとそんな幸せな事は無いだろうと思う。まぁでも、もしもを考えても何も変わらないのだから仕方がない。
だから今は、素直に再会を喜ぶことにした。