鉄郎とは、昼休み以外は相変わらず一緒に過ごし、昼休みは入れ替わったように太雅と過ごすようになった。鉄郎といると時は、ひたすら鉄郎の惚気話しを聞かされ、太雅といる時間は打って変わってテニスの話しばかりしていた。
もしかしたら、太雅なりの優しさなのかもしれない。
いつも隣にいた鉄郎は、今は美羽に夢中で、必然的に一人になってしまう自分を気にかけているのかと思った事もある。
無表情で感情が表に出ない太雅の真意は図りかねた。
その日、久しぶりに鉄郎が部活に顔を出した。
久しぶりの鉄郎とのダブルスは明らかに違和感じた。そんな鉄郎は部活が終わるとそそくさと帰って行った。
幸生はモヤモヤとした気持ちを抱えたまま家に帰るのが嫌で、空気の抜けてしまったボールの抜き取りをしようと、皆が帰った部室に居残る。
不意に部室の扉が開いた。太雅だった。
「お疲れ……」
幸生の口から条件反射のように言葉が出る。
部活が終わると太雅は監督と部長の宮野と三人でミーティングと言って、校舎の方に入っていくのを幸生は見ていた。
「ああ……何やってんの?」
太雅はウエアを脱ぎ捨てながら聞いてきた。
「ボール、結構空気抜けてるのあったから捨てようと思って」
カゴにあるボールに触り、先程の思考を追いやった。
「それ、いつもやってくれてるよな」
「そうかな? 一年たちも気付いたらやってくれてると思うよ」
そう幸生は言うと、沈黙が流れた。
(そういえば、太雅は俺が鉄郎を好きだって気付いているんだよな)
「今日の鉄郎とのダブルス……」
不意に太雅は着替えの手を止める事なく口を開いた。
「違和感あっただろ?」
「え?」
太雅の言葉にギョッとし手を止めた。
「な、なんで……」
「違和感があって当たり前だ。おまえのテニスのレベルは格段に上がった。それに比べて、鉄郎は練習不足でレベルの質がまるっきり落ちてる。おまえがポーチ決められなかったのは、ポーチに出れなかったんじゃなくて、出られなかったんだよ」
太雅の言葉に幸生は認めたくないと思いながらも、納得している自分がいた。
「次のインハイの予選、鉄郎とのダブルスは諦めろ」
その言葉に幸生の頭にカッと血が上るのを感じた。
「い、嫌だ! 鉄郎と出れないなら出ない!」
「じゃあ、レギュラー下りろ!」
太雅の顔からは今までに見た事のない怒りの形相に幸生は怯えからビクリと肩が大きく揺れた。
「負けると分かるペアを出せるはずねえだろ! おまえの自己満で団体戦やってるんじゃねえんだよ!」
幸生の体が小刻みに始めた。
(イヤダ……イヤダ……イヤダ……!ただでさえ、美羽の存在で側にいられる時が減ってるのに、テニスのペアまで解消されたら……!)
「鉄郎とペア組めないなら、レギュラー降りる……」
「おまえ、鉄郎の為にテニスやってるのか?」
そう言われて幸生は言葉に詰まった。
違う、そう言いたかったが、太雅に言われて本当は鉄郎との繋がりの為にテニスをしていたのかもしれない事に気付いてしまった。
「そうだって言ったら?」
幸生は目を伏せたまま、絞り出すような声で言った。
太雅は不意に、幸生の胸倉を掴みかかってきた。
「本気で言ってんのかよ!」
「悪い?!俺がどんな理由でテニスしようと勝手だろ?!」
無意識にそう口から溢れた。
太雅の顔を直視出来ず、目を伏せた。太雅は一つ大きく息を吐くと掴んでいた手を離した。
「そうだな……テニスやる理由なんて人それぞれだ。おまえがどんな理由でテニスやろうが俺には関係ねえか」
太雅の言葉に、ズキッと胸が痛んだのを感じた。
「だけど、勝ち負けは別だ。勝ちたいと思うのは皆んな一緒だ」
太雅の言葉はもっともだと思う。負けたいと思って競技をする人間などいるはずがない。
太雅はまた一つ息を吐くと、
「俺とのダブルスでも嫌かよ」
そう言った。
太雅の言葉に幸生は耳を疑った。
「太雅と? だって太雅はシングルス……」
「シングルス要員はいくらでもいる。おまえとダブルスやって、ダブルスって結構面白いって思い始めてて、さっきのミーティングでおまえとのダブルス、懇願した。シングルスは宮野部長と江口さんいるし、シングルス頼みのとこあったし、ダブルスはいつも勝てればラッキーくらいなとこあったからな」
「で、でも……」
「俺はおまえとのダブルスの相性、結構いいと思ってんだけど」
確かに太雅とダブルスを組むといつも以上の力が出る事に気付いていた。太雅とのダブルスは鉄郎以上のやり易さを感じていたのは確かだった。
「俺とのダブルス、考えといてくれ」
いつの間にか着替えを終えていた太雅はそう言って部室を出て行った。
(太雅とダブルス……)
鉄郎への気持ちがなければ、二つ返事で承諾していただろう。
(俺……何でテニスしてたんだろう……)
結局は鉄郎の側にいる為だけだった。鉄郎とダブルスのペアを組めるからという邪な考えでテニスをしていたのだ。
真剣にテニスをしている太雅に対して申し訳ない気持ちになり、そんな気持ちでテニスをしている自分を太雅に知られ、幻滅されたとのではないかと思うと幸生は自己嫌悪に陥ったのだった。
もしかしたら、太雅なりの優しさなのかもしれない。
いつも隣にいた鉄郎は、今は美羽に夢中で、必然的に一人になってしまう自分を気にかけているのかと思った事もある。
無表情で感情が表に出ない太雅の真意は図りかねた。
その日、久しぶりに鉄郎が部活に顔を出した。
久しぶりの鉄郎とのダブルスは明らかに違和感じた。そんな鉄郎は部活が終わるとそそくさと帰って行った。
幸生はモヤモヤとした気持ちを抱えたまま家に帰るのが嫌で、空気の抜けてしまったボールの抜き取りをしようと、皆が帰った部室に居残る。
不意に部室の扉が開いた。太雅だった。
「お疲れ……」
幸生の口から条件反射のように言葉が出る。
部活が終わると太雅は監督と部長の宮野と三人でミーティングと言って、校舎の方に入っていくのを幸生は見ていた。
「ああ……何やってんの?」
太雅はウエアを脱ぎ捨てながら聞いてきた。
「ボール、結構空気抜けてるのあったから捨てようと思って」
カゴにあるボールに触り、先程の思考を追いやった。
「それ、いつもやってくれてるよな」
「そうかな? 一年たちも気付いたらやってくれてると思うよ」
そう幸生は言うと、沈黙が流れた。
(そういえば、太雅は俺が鉄郎を好きだって気付いているんだよな)
「今日の鉄郎とのダブルス……」
不意に太雅は着替えの手を止める事なく口を開いた。
「違和感あっただろ?」
「え?」
太雅の言葉にギョッとし手を止めた。
「な、なんで……」
「違和感があって当たり前だ。おまえのテニスのレベルは格段に上がった。それに比べて、鉄郎は練習不足でレベルの質がまるっきり落ちてる。おまえがポーチ決められなかったのは、ポーチに出れなかったんじゃなくて、出られなかったんだよ」
太雅の言葉に幸生は認めたくないと思いながらも、納得している自分がいた。
「次のインハイの予選、鉄郎とのダブルスは諦めろ」
その言葉に幸生の頭にカッと血が上るのを感じた。
「い、嫌だ! 鉄郎と出れないなら出ない!」
「じゃあ、レギュラー下りろ!」
太雅の顔からは今までに見た事のない怒りの形相に幸生は怯えからビクリと肩が大きく揺れた。
「負けると分かるペアを出せるはずねえだろ! おまえの自己満で団体戦やってるんじゃねえんだよ!」
幸生の体が小刻みに始めた。
(イヤダ……イヤダ……イヤダ……!ただでさえ、美羽の存在で側にいられる時が減ってるのに、テニスのペアまで解消されたら……!)
「鉄郎とペア組めないなら、レギュラー降りる……」
「おまえ、鉄郎の為にテニスやってるのか?」
そう言われて幸生は言葉に詰まった。
違う、そう言いたかったが、太雅に言われて本当は鉄郎との繋がりの為にテニスをしていたのかもしれない事に気付いてしまった。
「そうだって言ったら?」
幸生は目を伏せたまま、絞り出すような声で言った。
太雅は不意に、幸生の胸倉を掴みかかってきた。
「本気で言ってんのかよ!」
「悪い?!俺がどんな理由でテニスしようと勝手だろ?!」
無意識にそう口から溢れた。
太雅の顔を直視出来ず、目を伏せた。太雅は一つ大きく息を吐くと掴んでいた手を離した。
「そうだな……テニスやる理由なんて人それぞれだ。おまえがどんな理由でテニスやろうが俺には関係ねえか」
太雅の言葉に、ズキッと胸が痛んだのを感じた。
「だけど、勝ち負けは別だ。勝ちたいと思うのは皆んな一緒だ」
太雅の言葉はもっともだと思う。負けたいと思って競技をする人間などいるはずがない。
太雅はまた一つ息を吐くと、
「俺とのダブルスでも嫌かよ」
そう言った。
太雅の言葉に幸生は耳を疑った。
「太雅と? だって太雅はシングルス……」
「シングルス要員はいくらでもいる。おまえとダブルスやって、ダブルスって結構面白いって思い始めてて、さっきのミーティングでおまえとのダブルス、懇願した。シングルスは宮野部長と江口さんいるし、シングルス頼みのとこあったし、ダブルスはいつも勝てればラッキーくらいなとこあったからな」
「で、でも……」
「俺はおまえとのダブルスの相性、結構いいと思ってんだけど」
確かに太雅とダブルスを組むといつも以上の力が出る事に気付いていた。太雅とのダブルスは鉄郎以上のやり易さを感じていたのは確かだった。
「俺とのダブルス、考えといてくれ」
いつの間にか着替えを終えていた太雅はそう言って部室を出て行った。
(太雅とダブルス……)
鉄郎への気持ちがなければ、二つ返事で承諾していただろう。
(俺……何でテニスしてたんだろう……)
結局は鉄郎の側にいる為だけだった。鉄郎とダブルスのペアを組めるからという邪な考えでテニスをしていたのだ。
真剣にテニスをしている太雅に対して申し訳ない気持ちになり、そんな気持ちでテニスをしている自分を太雅に知られ、幻滅されたとのではないかと思うと幸生は自己嫌悪に陥ったのだった。