タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




「父様、今すぐ命令を撤回してください。全員を打首なんて、やり過ぎではないでしょうか」
「父の命ではない。全ては我等が王の采配(さいはい)である」
「囚人達のことはよく知っています。彼らの罪は盗みや侵入、その罪の重さは打首になる程の重さではありません。父様もご存知のはず」
「よく知っているだと?それは無断で牢獄に出入りしていたからか。禁じられている事だと何度言ったらわかるのだ」
「牢獄を見回る事は、兵士の仕事の一つです」
「おまえは兵士ではない」
「ですが、その兵士がやるべき仕事をしていないように思いませぬか?囚人に食事を碌に与えず、飢えたり病に倒れている者を管理せずに放置しています。この現状は改善されなければならないでしょう?」
「囚人とは罪を犯した者のことだ。極悪非道にそこまで情けをかける必要はない」
「でも、彼らは罪を犯していません!」

綺那李(キナリ)の叫びに、阿湯太那(アユタナ)はようやく娘を直視した。娘の考えている事が全てわかった、とでもいうように。

「彼らとは・・・・あの異国人達のことだな。共に暮らしていて情が湧いたか。姫巫女の客人というのだから世話を焼いたが、あそこまで無礼であれば罰を課せられて当然のことだ」
「世話を焼いたのは母上です。それに歌織様や京平様のしたことは本当に無礼なのでしょうか?知らぬ異国の地に突然やってきて、まるで迷子のように、生きる為に行動しているだけではありませんか。それをわかってやろうともせず、他人だからと無碍(むげ)に扱う事こそ非道です」
「わかったような口を叩きおって!おまえが口を挟む事ではない」

綺那李は怒っていた。つい先程までは。
しかし歌織達四人の事を思えば、怒りよりも情が湧くのは自然な事だと思った。
確かに綺那李は今まで、栄養の足りていない囚人達に隠れて食料を運んだりしていた。京平と太市に運んだのが初めてではない。
それでも、彼らにはどこか助けてあげたいと思わせる何かがあった。それは同情ではなく、彼らを助ける事がこの奴国(ナコク)、強いては倭の国全土の為になるのではないかと、綺那李の直感で観ていたのだ。

それにあの夜ーーー歌織と共に食料を兵士へ届けた夜、出立前の家の中で老婆にも同じ事を言われていた。彼らは特別な使命を授かっている、彼らが求める限りの事をしてやりなさい、と。
だからこそ、父親の頑固さにいつにも増して抗おうとしているのだった。

「父様はいつもそうやって禁じてばかりですね。あれはダメだ、これはダメだ、と」
「当然だ、おまえが悪さばかり働くからな」
「父様。私は許して欲しいのではありません。話を聞いていただきたいのです。『ダメだ』と吐き捨てるのではなく、言葉の奥にある心を見ていただきたいのです。少なくとも京平様は聞いてくださって、私の思いを探り当ててくださいました。父様は、私の心の内を話す事も禁じられますか?」

綺那李の言葉に、娘としての懇願を阿湯太那は感じ取った。
兵長としての尊厳を身に纏いつつも、父親として娘との接し方に常に迷いを感じていたのだ。
言葉を失い、どう返して良いかわからなくなった阿湯太那は、話を切り上げようとする。

「父の申す事に従わぬか。つべこべ言わず、家へ帰りなさい」
「・・・・家?罪人である私に家へ帰ってもいいと仰せなのですか?」
「罪人とは大層な事を。父の言いつけに従いなさい」
「いいえ、私は規則を破り牢獄へ出入りし、無断で囚人達に食料を与えていました。罪人を手助けした事は罪であり、牢獄に入らなければなりませぬ。そして我らが王の仰せの通り、囚人は例外なく処刑されなければなりませぬ」

綺那李は一片の澱みなく言うと、兵長室の隅に控えていた九真由(クマユ)に向かい、両手を差し出す。

「九真由、私を捕らえて牢獄に入れなさい」
「ですが、お嬢さんは…」
「父に従わぬか、でなければどうなるかわかっているだろうな!」
「父様も仰せだったでしょう?全ては王の采配だって。王の命令は絶対だと」

自分の発言を逆手に取られた阿湯太那は、言葉を失う。そして憤りに任せて、愛娘を牢獄へ入れるように九真由に指示した。
綺那李は泣くことも困惑することもなく、凛とした態度で兵長室を去った。
後で阿湯太那は、激しく後悔をすることになるのは承知の上だった。