いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




ある朝、驚くべき知らせが大人の館にもたらされた。
邪馬台国を揺るがす重大な知らせがあるとして、政(まつりごと)に関わる位ある大人(たいじん)達が一同に集められた。
招集された者の中には、外交大使である難斗米(ナシメ)、そして副使の都心牛利(ツシゴリ)の姿もあった。

「どうして突然、我々は呼び出されたのでしょう」

都心牛利は主祭殿に向かう道中、不満を隠せず難斗米に漏らした。

「今まで我々は何かと理由をつけては詮議への参加を拒まれて、あからさまに嫌がらせを受けてきたというのに、今日になって何事もなかったかのように主祭殿に登れだなんて。彼の方は我々を何だと思ってるんでしょうね?」
「それ程に重大な何かがあるのであろう。政に携わる者を例外なく片っ端から集めているそうだ。他国との不和についてでなければ良いが・・・・近頃、狗奴国(くなこく)の動きが怪しいと聞き及ぶ」
「それにしても、その前に何か一言あるでしょう!今まで爪弾きにされてきて、黙ってなんていられませんよ。土下座をしろとまでは言いませんよ。でも謝罪の言葉の一つ、ついでに我々を爪弾きにした事に対しての弁解も一つ、あってもおかしくはありません。そうでしょう、難斗米様!」
「おまえの憤りはわかっている。だがそうであっても黙って従うのが、我々臣下である」
「臣下、ねぇ。どなた様の臣下だと思ってるんでしょうね、彼の方は。我々は女王の臣下であって、王弟君や腹黒ムラ長の臣下ではないでしょうに」
「ほら、もうすぐ広間に着くのだから。口を慎みなさい」

邪馬台国の主祭殿は、ミヤコのちょうど中央に重く佇んでいる。
奴国のそれと比べても収容人数や床面積は倍以上になり、高床式の三階建てだ。
ここまで規模の大きい高床式の建物は倭でも例はなく、かつて大陸から使者を迎えた際に建設技術を伝授され、腕の立つ技術者と何千人にも及ぶ奴婢の力で建設された。人々の血と汗から作られたと言える。

この主祭殿に向かって、早朝にしては多い数の大人達が歩いていく。
二階の広間へと繋がる階段は一人が通れる程の幅となっており、大人達が列を成していた。
難斗米と都心牛利もその列に加わり、不満ばかり漏れる口を閉ざして詮議に臨む。

その詮議は思っていた以上に重大だったようで、広間いっぱいに大人が入ると扉は固く閉ざされ、すぐに王弟の入場を告げる従者の声が響き渡った。
最前列に腰を下ろす賀舎(ガシャ)、牟須比(ムスビ)を筆頭に、何百人もの人が一斉に頭を下げる様子は圧巻である。

女王の唯一の弟、乙彦(オトヒコ)が従者を連れて現れ、広間の中央に腰を下ろした。
本来なら中央にあるべきは王座であるが、当然のように女王の為の席は用意されておらず、女王の代理として乙彦が人々の中心となって詮議を執り行うのである。

「大義である」

まさに王のような振る舞いの乙彦の一声で、大人達は一斉に頭を上げる。
頭を上げると言っても、許可なく目上の者と視線を合わせてはいけないため、斜め前を見るように視線を伏せる姿勢が正しい。
先ほどまで謝罪させてやるとまで言っていた都心牛利も、この場では目を合わせられず、許可を得ない発言も出来ない。