いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




「それさ、おかしいと思わない?死んだら終わりって、当たり前のことじゃん。その当たり前をわざわざ言い含めるっていうのには、何か理由があるんじゃないかなって。うちらが死んだら、あの武将のおっさんにとって不都合な事があるとしたら?普通に元の世界に戻れちゃうから、『死ぬのはダメだ』って言ったんじゃないのかなって」
「・・・・そうだとしても、試してみるには危険すぎない?」
「まあね。でも、歌織ちゃんはそう思わないの?」

歌織は頷く事も、否定する事もしなかった。
たしかに遥の言う事も一理あると思い、新しい視点を得られたと受け止めつつも、遥の考え方は危険なように感じた。
周囲の出来事を軽く見ている。自分の命ですら、放り投げてもいいと思っているようだ。
この世界が架空のものであると信じる事に起因しているのだろうが、遥の話す内容はどれも曖昧で憶測ばかり。信用するには頼りなく、考えの芯の部分が伴っていないように思えた。

それでも遥は笑顔を見せて、歌織と距離を縮めようとする。

「あのさ、これから歌織ちゃんのこと、"かおりん" って呼んでもいい?」
「え、何、"かおりん" って」
「友達になったらあだ名つけてんの。うちのことも、"はるっち” って呼んでもらっていいから」
「・・・・いや、"はるっち" はいいかな。普通に、遥で」
「そう?いいけど」

歌織と遥は時間を忘れて、会話に夢中になった。
それ故に、蔵に人影が近づいて来た事にも気づかなかった。
突然木の扉が開けられ、大きな音を立てて壁にぶつかり、歌織と遥は肩を震わせた。

「・・・・話し声が聞こえたと思ったのだが、私の気のせいだったか?」

扉の前に立っていたのは、侍女頭の米徒那(メトナ)だった。
地獄耳でも持っているらしい彼女は、規則を犯す者に罰を与えることに必死のようだ。
歌織と遥はすぐさま、米徒那に対して無言で頭を下げた。
何もやましいことはないかのように、視線を地面に落として沈黙を貫いた。

「まぁ、よい。かなり待ってやったのに作業が進んでいないじゃないか。ここは他の者に任せる。貴様らは巫女様からお供物を頂き、"ミヤコ” の大人(たいじん)の館へ届けるのじゃ。貴様ら二人と・・・・あの子供も連れて行け」

歌織と遥は無言で首を縦に振り、そそくさと蔵を出る。
私語をしていたことがバレず、鞭を振るわれなくて良かったと、胸を撫で下ろした。
侍女頭が言った『あの子供』とは綺那李のことを指していた。
巫女の館に戻って綺那李と合流し、三人で巫女から供養物を受け取りに向かった。

巫女は毎朝日の出と共に、祭壇に向かって祈祷をしている。
それは奴国にいた時も同じ慣習があった通りだ。
祭壇に備えた食糧や、祈りを込めた勾玉等の神具を回収し、大人の館に毎日届けている。
いつもは決まった人物が選ばれるのだが、今日はなぜか歌織、遥、綺那李の三人が選ばれた。三人とも、この仕事を受けるのは初めてである。

祭壇にいた見習いの巫女から、神具を受け取る。
いつものように嫌がらせや罵りを受けるかと思いきや、今日は大人しく何もしてこなかった。それどころか歌織の顔色をちらちらと窺い落ち着かない様子で、神具を渡した後すぐに去ってしまった。

歌織は疑問に思いつつも、特に気に留めず巫女の館を後にした。
その直前、館の中で伊代の姿を探したが見つからなかった。
何か別の仕事を言いつけられているのかもしれない。日が暮れればいつものように小屋に戻ってくるだろう。そう信じて三人は一足先に下山した。