*
翌日、歌織は早速動いた。
侍女頭の米徒那から蔵の食糧の配達を指示され、偶然その要員に歌織と遥が選ばれたのである。
蔵には監視が置かれておらず、誰の目を気にすることも無く声をかけることが出来た。
歌織はタイミングを伺いながら恐る恐る遥に声をかけ、ずっと思っていた疑問を尋ねる事が出来た。
「・・・・やっぱり、そうだったんだ。私も未来からタイムスリップしてきたんだよ」
と言って、遥は安堵した。
話を聞くと、遥は歌織達と同じ現代の日本に住んでいて、生きている時代もほぼ同じ事がわかった。
銀行勤めで結婚を機に退職し、専業主婦をしている24歳だ。歌織と年齢が一つしか違わない。
仕事も無く、子供もおらず、夫と二人で細々と暮らしていた。
「いつものように夕方買い物に出かけて、旦那に夕飯は何がいいかメッセージを送ったの。スマホに気を取られていた隙に赤信号を渡ってしまったみたいで、車に撥ねられたみたい。それで気がついたら真っ暗な空間にいて、ぽつんと目の前にあった古いお城を目指して歩いたの」
「それは、私も一緒!真っ暗な空間にいて、お城の武将に『試練を与える』とか言われて、この時代に飛ばされてきた」
「マジで?!やっぱそうなんだ。同じ境遇の人に出会えて嬉しいんだけど!」
「ちなみに、試練の内容って同じかな?武将に何て言われた?」
「えっと、この時代の人たちに日の出を見せろとか何とか、そしたらこの国は平和になって、私を現代に返してくれるって言われた」
「やっぱり・・・・私も同じ事言われてる。やっぱり同じ理由でここに飛ばされてきたんだ」
遥の話し方はとても馴染みやすく、歌織はすぐに打ち解けた。
年齢に少しの差はあっても、遥は最初からタメ口でいいと言ってきた。
歌織が親近感を覚えたのは、遥から滲み出る "ギャル” らしさからだろう。
「やっぱわかる?私、JKの時バリバリのギャルだったんだよね。金髪で毎日髪をぐるぐる巻いて学校行ってた」
「えぇ!今時、そんな激しいギャルいる?」
「いないよ。正直高校でめっちゃ目立ってた。ていうか浮いてた!それでもイキってギャルを貫き通したんだけど、高校で唯一話しかけてくれたのが今の夫。高校卒業して付き合い始めて、去年入籍したばかりなんだ」
「そっか。それじゃあ、今が一番ラブラブな時期なんじゃない?・・・・旦那さんと離れて、とても心配だよね」
「今頃、どうしてるんだろうね。急にいなくなった私を必死に探してくれてるのかな。それとも、この試練が終わったらちょうど事故の直後に戻って、私はどこにも行ってなかったみたいなオチになったりして・・・・やば、SF映画の見過ぎかな。とにかく、悪い事が何も起きていないように願うしかないよ」
遥は、目の前に保管されている根菜を手に取る。
本日の夕餉に必要として運んでくるよう言われていた食材の一つだ。
見た目は大根のようだが、スーパーで見かけるものよりも細くて短く、色も白ではなく茶色味を帯びていた。
遥はじっくりと根菜を見つめながら、歌織に問いかける。
「ねぇ、歌織ちゃん・・・・うちらって、本当にタイムスリップしたと思う?」
「え?どういう意味?」
「この世界って、本当に日本の過去なのかなって、疑問に思わない?もしかしたら、うちの夢の中の架空の世界か、パラレルワールドじゃないのかなって」
「そう、かもしれないけど、少なくとも邪馬台国と卑弥呼が存在するっていうのは、歴史の授業で習った通りだよ?私の友達で歴史に詳しい子が一緒に来ているんだけど、その子の見立てでは、弥生時代だって・・・・」
「うち、自分のいる世界が信じられないよ。もうここに来て2年経つけど、未だに夢の中なんだと思ってる。うちが死んだら・・・・目が覚めて元の世界に戻れるんじゃないかなって」
「・・・・でも、遥さんも聞いたでしょ?死んだら元の世界には戻れないって」

