いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




数日後の夜、日中の労働を終えて小屋で寛いでいた四人の元へ、難斗米と都心牛利が訪ねてきた。
そして膝をつき、深々と土下座をしたのである。

「申し訳ない!あらゆる手を尽くしてみましたが乙彦様へのお目通りは叶わず、もうお手上げにございます!」

「何か、お気に触るような事をしたのか・・・・しかし全く身に覚えがなく」
と、都心牛利はポリポリ頭を掻く。

ムラ長である賀舎、牟須比の他にも、乙彦に会うことを許されている位の者ほとんどに声をかけたが、政に関わる大人達は大抵、賀舎もしくは牟須比に通じており、彼らの顔色を窺って頭を横に振るだけだった。

「恐らく、何か政治的な思惑が絡んでいるように思えてなりません。憶測で物事を語るのは憚(はばか)られますが・・・・我々は名家に生まれた訳ではないのに外交大使として各方面に顔を効かせているものですから、ありもしない権力を疎む者がいるようで、つまりは良い様に思われていないのです」
「我々のお役目が奪われるのも、そう遠くないかも・・・・」
と都心牛利は冗談のように軽く言うが、四人はとても冗談には思えなかった。

伊代は頭を下げる二人の後頭部を見つめ、その姿がとても哀れに思えた。
ここまで自分たちのために尽力してくれたにも関わらず、それは実らなかったし、二人の立場を危うくしているというのであれば申し訳ない。

「難斗米さん、都心牛利さん。ここまで私たちの為に動いてくださって、ありがとうございました」
「伊代・・・・!そんなこと言って、もう協力してくれなくてもいいって言うつもり?」
と、歌織が真っ先に伊代を制する。

「そういう訳じゃないけど、これ以上動くことで逆に二人が犠牲を払うことがあるのなら、私も心苦しいし・・・・」
「滅相も無きことにございます。我々は女王より、大切なお客人をお守りするよう仰せつかっております。あなた方のお力になることは当然の行いにございます」
「でも・・・・その女王様から、直接命令された訳ではないんですよね?女王様の弟から伝言された訳で、しかも今になってその話は風化して、無かったことにされかけているんですよね。これ以上抗っても、誰の為に行動しているのかわからなくなりませんか?」

伊代は正直な気持ちを二人に伝える。
これは二人を疑ったり試したりしているのではなく、二人への率直な問いかけであった。
現代に生きる伊代は、君主を信じて忠誠を誓うということに無縁の人生を送ってきた。勿論、歌織や京平、太市も同じである。
歴史書を学べば君主に仕えるという事の重要性を知ることは出来るが、自分事として捉えた時、そこにどれほどの拘束力が発生するのかわからなかった。
会ったことのない、顔も知らない女王に対して、たった一言の命令をどこまで守ることが出来るのか。伊代達の協力者と信じるためには、そこが重要だった。

「・・・・我々は何があっても、我が女王の命に従います。たとえその命を無かったことにされようとも、我々がこの忠誠心を持って命を守り、成し遂げます」
「都心牛利も、同じく女王の命に応じます。女王の弟の言葉に、ではなく!」

難斗米と都心牛利の瞳に、迷いはなかった。
囲炉裏の炎に照らされて、二人の瞳は輝いているように見えた。
伊代はその姿に少しばかりの安堵を覚えた。歌織や太市も同じく、二人を信用して頷いた。
京平は相変わらず二人をじっくり見定めるような視線を保っていたが、二人を否定するようなことは何も言わなかった。

夜も深まった為、難斗米と都心牛利を家に帰らせた。
二人の背中を見送った後、京平は早速提案をした。

「これ以上二人に頼らないのは、俺も賛成だ。別の角度から動いた方がいいと思う」
「別の角度って?どうやり方を変えて、女王に会おうとするんだ?」

太市の問いかけに京平は答えようとするが、その前に視界の隅に綺那李の姿を捉えた。
先ほどから蚊帳の外だった綺那李も、隣の土間から話をこっそり聞いていたようだ。

「申し訳ありません、盗み聞きをするつもりは・・・・いや、聞いておりました。どうしても皆様のお役に立ちたくて」

綺那李は四人の前に出て、しょんぼりと頭を下げた。
叱られるのを覚悟の上で聞き耳を立てていたようだ。
太市は何か理由を作って綺那李を部屋から追い出そうとしたが、京平はそれを制した。

「これ以上、綺那李を話の輪から追い出さなくてもいいだろう。常に俺たちと一緒に行動してくれているんだから、ある程度の事は知っておいてもらった方が好都合じゃないか?」
「・・・・でも、綺那李ちゃんにどこまで話すつもり?」
と、歌織は困惑して尋ねた。

「私が何か述べるような事はいたしません!皆様の影だとでも思っていただければ。私は否を言いませんし、探るような事も一切致しません。皆様のお役に立つように使っていただきたいのです」
「別に何かしてもらいたいという訳じゃない。これ以上蚊帳の外に出さなくてもいいんじゃないかってだけだ」

京平の言わんとしている事は、綺那李だけを仲間はずれにして独り寂しい思いをさせるべきではない、という意味だ。
それがつまりは、綺那李に全てを包み隠さず話そうという事ではない。
自分たちが何百年、何千年も後の世界から来た事や、与えられた試練の事を伝える気はないが、『故郷に帰る為の作戦会議』という建前を作れば、10歳の少女を納得させるには十分だろうと京平は考えた。

「相変わらず京平は上手いな・・・・ま、俺も綺那李ちゃんの事はちょっと気になってたんだ。綺那李ちゃん、こっちにおいで。一緒に話を聞いてくれていいよ」

太市は京平の言わんとしている事を理解し、自分の隣に綺那李を座らせた。
綺那李の不安を拭う為、目を細めニッコリと笑いかける。
綺那李は自分が認められたと感じ、太市に笑顔を返した。彼らが何らかの隠し事をしていることは感じ取っており、皆まで知らずとも彼らの手助けをしたい、役にたつ一人前の護衛になりたい、そう強く願っていた為、その思いが少し報われた気がした。

太市は自分だけが視える "幽霊” の正体が、自分たちの同胞であることを歌織と伊代に伝えた。
あくまでも "同胞” という表現を使う事で綺那李には詳細を隠したが、歌織と伊代にはそれで伝わった。
京平は平成の時代から来た大学生ノリアキに誘われている組織の事を話し、次の機会に接触を試みようとしていることを話した。

太市の能力の話を受け、歌織は遥(ハルカ)に接触を試みると決めた。
遥も同じく青白い光を放つ人間であり、繋がりを持っておけばいずれ役にたつだろうと思ったのだ。
伊代も歌織の話に賛同した。しかし日中の労働の最中に話しかけることは、たいへんリスクが高い。あらかじめ計画を立てて慎重に進めるべきだとし、この日の話し合いは終えた。

綺那李は話し合いの全てを理解した訳では無かったが、四人の輪に入れてもらえたことがとても嬉しかったようで、就寝するまでずっと口角は上がったままだった。
その嬉しそうな表情を見て、伊代は少女の頭を優しく撫でてやった。