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難斗米と都心牛利は方々に掛け合い、乙彦と直接話す機会を設けられないか尽力していた。
このように骨を折らずとも、適宜開催される詮議や大小様々な話し合いの場で、乙彦と顔を合わせる事は今までよくあった。
しかし帰国してからというもの、何故か難斗米達はそういった話し合いに召集されることがぱったり途絶えた。
時にはあからさまに、話し合いへの参加を断られ門前払いされることもあった。
「我々は女王の命を受け遥か遠いクニへ旅をし、客人を無事にお連れしたというのに、この扱いはなんだ。まるで女王の命など最初から無かったかのような振る舞いだ」
「難斗米様、申し訳なくも私までそう思えてきております。何せ女王直々に真偽をお伺いすることが出来ないのですから、頼みの綱は乙彦様のみ・・・・ここまで除け者にされるのであれば、乙彦様が我々を退けられているとしか考えられません」
「いや、諦めてはならない。確かに私は女王の命を受けたのだ。それも乙彦様から言付かった。我が女王の命であるならば、蔑ろにすることは決して許されるべきではない。我々は戦わねば!」
この事態を重く受け止めた難斗米は、邪馬台国内の権力者に直談判することに決めた。
二人はまず、乙彦の次に権力を持つと言われる主要都市 "ミヤコ” のムラ長、賀舎に願い出た。
乙彦とも繋がりが深く、"右腕" または "王弟の犬" と称されているのだが、ここ最近は大した働きをするでもなく大きな屋敷で下々の者を従えてふんぞり返っているだけらしい。
賀舎の屋敷を訪ねたが、『個人的な要件で乙彦様に取次とは無礼だ』として追い返された。
「・・・・ちくしょう、何が無礼だ!強欲なタヌキめ!あの大きな太鼓のような腹を思いっきり叩いてやりたいと、何度思ったことか!」
「都心牛利、そこまでにしておきなさい。あの方は根っからの王弟派だ、断られることは目に見えていた。もう少し希望の持てる方のもとへ行こう」
次に訪ねたのは賀舎と同じほどの力を持つ、農村部 "ホトリ” のムラ長、牟須比である。
こちらは賀舎と打って変わって無欲で常に無表情であり、強情な責任感と融通の効かなさによって作られた男だ。
それ故に誰かに肩入れすることなく、公平な立場で物事を語ることが出来る。
近頃は川の普請工事を執り仕切るため、いつも外出していた。
難斗米達もわざわざ川の下流まで歩き、牟須比を訪ねた。しかし。
「否」
牟須比はただ一言そう告げ、難斗米達に背を向けた。
二人は驚き、何度も迫った。
「否、とは・・・・何とかお力添えをいただけないでしょうか。乙彦様へ面会をお取次いただきたいのです」
「私はムラ長であって乙彦様の側近ではない。お会いしたいのであれば直接お訪ねになるべきだ」
「それが難しいのですから、ご相談差し上げているのです。牟須比様もお聞きになったでしょう、私たちが授かった女王からの命を。我々は遠い奴国まで旅をして、女王が謁見を望まれたお客人達をお連れしたのですぞ。なぜすぐにでも面会をなされないのか、客人とも言えない奴婢同然の粗末な扱いをされなければならないのか。女王の命に反していると思われませぬか?」
「・・・・女王の命に背くことは、あってはならぬことだな」
「そうでしょう?ならばすぐにでも、乙彦様に拝謁し女王へご報告しなければ!」
難斗米と都心牛利の威勢の良さに、牟須比は大きく溜め息を吐いた。
そして振り返って二人に向けた目つきは、愚かな未熟者を刺すかような鋭さだった。
「其方達は知っているか?・・・・あの赤い満月の夜以降、女王は祈祷をなさらなくなった。お告げをお聞きになったり、下々の者へ命令されることもなくなったそうだ」
「え・・・・それは、誠にございますか?」
「初耳にございます・・・・お身体の具合でも、悪いのでしょうか?」
「ご様子を尋ねたが、詳しい事は誰もわからない。乙彦様しか女王にお目見え出来ないからな。近頃はもっとも、乙彦様が政の采配を下されるようになっている。だからこそ乙彦様はお忙しく、其方らの懇願一つに構っている暇はないのだよ」
「それは・・・・そのようなご事情であれば、重く受け止めますが・・・・」
まだ納得のいっていない表情の都心牛利に、牟須比はさらに釘を刺す。
「私から一つ言わせてもらうとするならば、女王の客人とは言えども辺境から来た異国人、あの者達は自らの立場を弁えていない。仕事を与えられているにも関わらず、重労働は他の奴婢に任せ、よく抜け出しているな?あの者達は毎日どこに隠れているのやら。普請工事を任される長として、これ以上黙って見ているのも限界がある・・・・お前達、何か知っているか?」
「・・・・いえ、そのような事は、存じ上げませんな」
これ以上懇願する事はかえって危険だと判断し、二人は一礼してその場を去った。
勿論、京平と太市に自分たちの部屋を譲り、重労働から逃げる場所を与えたのは自分たちである。
牟須比はたいへん察しがよく、何十人もいる奴婢全員をよく見て監視している。
責任と公平を重んじる男であるから、奴婢と同等でありながら外交大使の二人に丁重に扱われている京平と太市を快く思っていないのだろう。
「・・・・今後の行動に気をつけるよう、お二人にお伝えしなければな」
そう言った難斗米は、背中に嫌な汗を掻いていることに気づいた。

