いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




川の普請と言っても、何か設備を建設したりするようなものではない。
とにかく土を掘り、川の形を整える。
必要があれば、丸太を寄せ集めて小さな橋をかける。その程度のことだ。

また次に同じような嵐が来ても、また同じような被害が出ることだろう。
それなら被害を軽減するか、無害で収める為の処置を講じるべきだと、京平は頭の中でずっと愚痴を考えていた。
しかし、それを漏らすことは決してない。なぜなら奴隷同然である彼らに発言権は無いからである。

指示された事をその通りにこなす。何も考えずとも出来る事だ。
普請工事の指示を出しているのは、この川の下流に位置する "ホトリ” というムラの長だ。
頭二個分程度飛び抜けて身長が高く、身体の線が細いためどこからでも目につきやすい。
その分周囲をよく見回し鋭い目つきを常に向けているため、こちら側が目をつけられているような気持ちになる。

ムラ長の名を、牟須比(ムスビ)と言った。

見張られているような気分は、果たして気のせいなのか何なのか。
しかし京平は、鋭い視線を常に背中に感じていた。
気にしないよう、ひたすら土の運搬作業に集中しようと試みるも、ふとした時に目が合い、厳しい眼光を浴びせられる。

太市にも同じ視線を向けられているようだったが、本人はそれに気づいていないようだ。
否、それどころではないのだろう。
太市は京平と共に運搬作業に加わりながら、幽霊と疑わしき人間を観察していた。

青白い光を放つ人間は、年齢、姿格好、身分も様々だ。
何か繋がりがあるようには見えない。
本当に幽霊なのだろうか、だがしかしよくある幽霊の特徴である、体が透けているだとか、足が地面についていないだとか、物に触れることが出来ないだの、そのようなことは一切なかった。
仲間同士なのか、とも思いきや、幽霊同士で目を合わせたり、一緒に行動したりということも特に無い。

益々不思議に思って意識が逸れており、足元のぬかるみに気づかず進もうとする。

「太市、危ない!」
と、京平は思わず声に出して注意する。

「おっと・・・・悪い」
太市は歩みを止めてぬかるみを回避した。
しかし二人の発声を見逃さず、牟須比は近くの兵士に目線で合図を送る。
合図を受けた兵士は、目を吊り上げて二人に迫る。

「おい、喋るな!黙って働け!」
「す、すいませ・・・・」
と思わず太市は謝罪をするが、それすらも奴婢には許されていない。
すぐさま兵士は腰に下げていた木の棒を振り上げ、太市の背中に一発打ち付ける。
突然のことに太市は前のめりになってぬかるみの上に倒れる。

「次に誰かの声が聞こえたら、この程度じゃ済まないからな!」
と兵士は、周囲の奴婢に届くように声を張り上げる。

兵士が離れていくのを見届け、京平は太市に手を貸し、起き上がらせて運搬作業を再開する。
きっと腫れ上がっているだろう痛々しい背中を気遣う声すらかけられず、京平は牟須比を睨み返すことしか出来ない。
鋭い眼光が衝突しようとも、それを咎めたり止めさせるようなことは、牟須比はしなかった。

しばらく沈黙の中で作業が続き、再び牟須比は兵士に合図を送る。
合図を受けた兵士は二人に近づく。

今度は何事か。声を出したり、奴婢の禁忌を犯すようなことはしていないはず。
警戒していると、兵士は京平と太市の前に立ちはだかり、過激な形相で口を開く。

「お前ら二人には別の仕事を頼む。泥を洗い流して大人の館に戻れ」