小屋を出て、五人は奴婢が住まう館へと向かう。
このクニの身分差の実態を知ったことで、日頃の生活に根付く小さな差別にも目が向くようになった。
たくさんの人が行き交う大きな道では、華美な衣を身に纏う高貴な身分は道の中央を、農民や奴婢は道の端を歩き、すれ違う時には道を譲らなければならない。
奴婢はそもそも大通りを歩こうとはせず、裏の細い路地を隠れるように使っている。
そしてここでも、身分の高い者と目を合わせてはならないようで、頭を垂れてなるべく目線を上げないように歩いている姿が見受けられる。
自分たちも同じようにすべきか、と伊代は仲間に尋ねたが、京平や歌織は愚問だとばかりに胸を張って道を歩いた。
通り過ぎるムラ人達からの視線が痛かったが、幸運か否か、それを指摘したり罵声を浴びせてくる者は居なかった。
こうして奴婢の住まう館の前に到着すると、時を同じくして奉公場所へ向かう奴婢達が丁度出てきていた。
昨日も見た男が同じように怒声を上げながら、奴婢達を館から追い出している。
手には鞭を持っており、恐怖心を煽るように度々地面に叩きつけた。
館の人間に見つからないよう、五人は建物の塀の影に身を潜め、遥が出てくるのを待った。
そして出てきた瞬間、それが本人だとすぐにわかった。
伊代や歌織、綺那李は彼女の顔を知っている為、探すのは容易いことだ。
しかし驚くべきことに、顔を知らないはずの太市も、その人が遥であることをすぐに見抜いた。
なぜなら遥の背後には ———— 何やら青白い光が出ていたのだ。
蝋燭の炎のようにゆらゆらと立ち上がり、でも煙や火花は感じられない。
後光と呼ぶにはこじんまりしているが、どこか非現実的で、謎めいたオーラのようなものを感じた。
「・・・・ゆ、幽霊?」
と、思わず太市は声に出していた。それほど衝撃的で信じがたい光景だったのだ。
「え、幽霊って言った?」
と、歌織は疑って聞き返す。
仲間達は何事かと、辺りを見回す。
しかし太市の目に映る光景は、他の誰にも見えていないようだ。
混乱している間に奴婢達は散り散りになり、遥の姿も森林の方へ去ってしまった為、もう一度あの青白い光を確認することは出来なかった。
太市は自らの目を疑い、何度も擦ったり、瞬きを繰り返した。
それを見た京平は、本気で太市を心配した。
「え、大丈夫かよ?太市って霊感あったんだっけ?」
「いや、無いよ。幽霊信じてないし・・・・寝起きで視界がぼやけていたのかも」
「ねぇ、何なに?どこに幽霊がいたの?髪の長い女の人とか?」
と、歌織は興味津々で太市に尋ねる。
伊代はそれを聞いて肩を震わせた。綺那李も怯えながら、素早く辺りを見回している。
「いやいや、ごめん。俺の勘違いだったわ!」
と、太市は仲間の恐怖を拭うために平常心を装った。
「えー、つまんないの。っていうか、こんな朝っぱらから幽霊は無いよね」
奴婢達の姿はなくなり、自分達も奉公先の集合時間が迫る為、足早に解散した。
太市の疑念は謎のままとなり、悶々と考えながらも京平と共に大人の館を目指した。
しかし思ったよりもすぐに、その疑念をまた目にすることになる。


