いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




「・・・・それは恐らく、歌織の読み通りだな」

日が沈み、夕餉(ゆうげ)を五人で囲み食べ終わった後、綺那李が寝た頃を見計らって四人は夜の庭に出てきた。
今日一日起きた事を共有し、得た情報を整理する為である。

電灯も篝火(かがりび)もない深夜でも、月さえ出ていればお互いの顔ははっきりと認識できる。
まもなく満月を迎えようとしている為か、月光は街灯のように明るかった。

歌織は早速、巫女の館の実態と "遥” という侍女のことを話した。
その侍女の名前や話し方から、彼女も自分たちと限りなく近い時代の人間なのではないかと考察した。
そうであれば、歌織が慣れない獣の調理に手を差し伸べたことが、同じ苦労を経験した同情心から来ているものだったと合点がいく。

「ということは、遥さんも私たちと同じく、この時代に連れてこられたって事?」
「その可能性が高いな。でも断定はできない。他にその人についての情報はあるか?」
「・・・・今のところはまだ。日中だと監視の目もあるし話せないから、機会を窺って探ってみるよ」

女性二人の情報共有が終わると、次は男性側の情報を話し始める。
京平と太市が任されたのは、幸運なことに難斗米(ナシメ)都心牛利(ツシゴリ)の世話係だった。

形式としては女性陣と同じく奴婢であったものの、罪悪感があったのか、難斗米達は下人としての扱いをせず、慎重かつ丁寧に二人と向き合ってくれている。
機に応じて外交大使としての仕事の一部を教えたり、邪馬台国に仕える大人達を紹介した。
その事もあって、女性陣達よりも多くの内部情報を知ることが出来る機会に恵まれたのだ。

「今日わかった事としては、奴国と比べて身分の上下がかなりはっきりとしていて、地位役職の階級が細々と分けられているという事だ。奴婢や下人は最下層だけれど、その中でもさらに、出身のムラや仕えている大人の地位によって上下関係が別れている。他国から来た俺たちは最底辺で、クニ中の人から白い目で見られているってことだ。頂点は勿論女王、その下に女王の弟がいて、各ムラの長、政治に関わる官僚・・・・と続く。謁見可能なラインというのがあって、一番上の女王の弟と会うことが許されているのは、官僚から上の階級と、身の回りの世話をする一部の侍従だけだ」

「あれ、女王に謁見できる身分の人は?」
と、歌織が尋ねる。
「基本的に女王に会うことは誰も出来ない。女王の弟だけだと言われているらしい」
「でも、女王様だよ?政治とか、占いのお告げとか、国民に伝えないといけないでしょ?」
「それも、すべて女王の弟が指示を受け、下々に伝えているんだとか」
「そんなんで上手くやっていけてるの?不思議だわぁ。やっぱ昔の人はそういうのに拘るものなのかな」
「これじゃ、私たちを邪馬台国に呼び出した理由を直接女王に問いただすのは難しそうだね」
と、伊代が懸念する。
「こういう体制だからだろうな、きっと女王自身が言ったことが捻じ曲がって伝わっている部分もあるんじゃないかと思う。現に俺たちがここにいざ来てみたら、聞いていた内容と違った、というように」


京平が話し終えると、他に付け加える情報は無いかと太市に視線を送る。
しかし太市は何か考え込んでおり、京平の合図に気づいていない。

「太市、何か気になることでもある?」
と、伊代が問う。

太市は暫し無言のまま目を彷徨わせ、顎を指で軽く弾きながら何かを推察する。
そして何かを思いつくと、三人の友達を交互に見つめた。
「・・・・明日の朝、さっきの人に会えないかな?」
「 "さっきの" って、遥さんのこと?」
「そう、その人。明日は少し早い時間にここを出て、偶然を装ってその人と合流出来ないかな、と。何か手がかりが掴める可能性があるとしたら、多分その人だと思うし」
「たしかに・・・・でも、いきなり押しかけて大丈夫かな?様子を見る程度なら、私たちが仕事中に、というか奴隷をさせられている時に隙を見て話す事もできるし」
「それは危険だ、基本的に発言は許されていないだろ。それに何と言うか、自分の目で確かめたいことがあるんだ」
「太市が直接会いたいってこと?」
「そう。我が儘言って申し訳ないけど」
「我が儘じゃないって。やれることは何でも試そう。今の俺たちの手がかりは僅か、ほぼ無いと言っても過言じゃ無いからな」

四人は目配せし、静かに部屋に戻って床に入った。
綺那李が息を潜めて会話を聞いていたことも知らずに、四人は疲れも相まって熟睡した。