いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




日が西に傾く頃、どうにか炊事を終えて巫女達が着く食事の席を整えた。
数十名分の食事で、かつ一人分の量がとても多く感じられるのは、巫女の食事が一日に一度きりであるからだった。
しかしその中に、侍女達の分は含まれていない。

水行を終えた巫女達が湖から出てくると、伊代は体を拭くための清潔な布を一人ひとりに手渡す。
この時は巫女に近づく事を許されるが、決して目を合わせてはいけないと厳命され、顔を伏せて布を差し出す。

途中、不注意で一人の巫女に手が当たってしまう。
「あっ、すみません・・・・」
と伊代が謝罪の言葉を口にした瞬間、その巫女は目を見開き、右手を振り上げて伊代の頬を叩いた。

「その汚らわしい声を出すでない。私の耳は神の声を聞くためにあるのだ」
と伊代を睨みつけ、すぐに去っていく。
厳しい扱いをするのは、どうやら侍女頭だけでは無いらしい。

そばで見ていた綺那李がすぐに駆け寄ろうとするも、侍女頭がそれを制した。

「巫女様の気を悪くさせるようなことはしてはならぬ」

それだけ言って、綺那李を持ち場である火の番に戻させた。
この時は侍女頭も、鞭を懐へしまったまま手にしなかった。
さすがに巫女達の前で鞭を振るうことはしないようだ。

巫女達の食事の場は、修行の後ということもあり気を緩めることが出来る数少ない時間のようだ。
その為か、配膳をする侍女に対して当たりが強かった。

「早く食事を運んできなさいよ、鈍間(のろま)愚図(ぐず)!」
「何だか獣の血の匂いがするわ。食事の席なのに最悪ね」
「お前たちはそれしか能のない奴婢なんだから」

時に言葉の暴力、時に手が出て暴力を振るわれる。
新入りの三人だけでない、慣れている他の侍女達にもあること無いことを突きつけられ、格好の餌食となっている。
侍女達は抵抗することもできず、涙を流すことも許されていない。
ただじっと耐え、言われるがままに動くしかない。
本当に奴婢に対する扱いそのものである。

綺那李は雑務を押し付けられながら、遠目で二人の様子を窺っている。
伊代の頬には、先ほどの手打ちで赤い腫れが確認できた。
歌織は館の隅で床を睨みつけ、どうにか怒りが爆発しないようじっと耐えている。
本来の護衛としての役目が何も果たせず、唇を噛むことしか出来なかった。

太陽が山の峰に隠れ始めた頃、ようやく三人は仕事から解放された。
住居として提供されている小屋へ戻ることが出来るが、他の侍女達はそのほとんどが巫女の館に住み込みで働かされている。
とはいっても館の内部ではなく、別で掘られた暗くて窮屈な洞窟を寝床として与えられているのだ。
侍女頭も勿論そこに寝泊まりしている為、下山するのは伊代達三人と、ミヤコで寝泊まりすることを許されている数名の侍女だ。
彼女達は巫女の館だけでなく、ミヤコに住まう偉い大人の奥方や家族にも仕えて(扱き使われて)いる為、下山する必要があるのだ。

その中には、歌織の獣の解体を手伝ったあの侍女もいた。
下山には巫女も侍女頭もいない為、侍女達はようやく会話をすることが出来た。