聞いていた話と違う、何かの手違いでは?
そう侍女頭に伝えられればどれほどよいか。
しかし三人には、この巫女の館で発言権を与えられていない。
有無を言わさず三人は連れていかれ、早速過酷な仕事を命じられた。
まず初めの仕事は、巫女達の食事の準備である。
数十人分の食材をミヤコから標高ある山頂まで運び、調理するところまで全てが侍女の仕事だ。米の入った土器や肉、魚を運ぶのには相当な体力が必要だが、神聖な巫女の地に男性が足を踏み入れることは禁じられており、男手に頼ることは出来ない。
足元の悪い山道を二往復して、十名ほどの侍女だけで食材を運んだ。
息が切れて途中で休もうとすると、すぐに侍女頭の鞭が飛び、足を止めることを許さない。
すべての食材を運び終える頃にはくたくたになり、伊代と歌織は地面に仰向けになる。
しかしそれでも休息を取ることは許されない。
巫女の修行が終わる前までに、食事の支度を整えなくてはならないからだ。
綺那李は火を起こして幾つもの米入り土器を焚べ、つきっきりで火の番をさせられる。
山風によって煙を全身に浴びる形になり、咳が止まらず、目も開けられない状態だ。
歌織は獣肉を捌くように命じられる。
現代で自炊は程よくやっていたが、猪や鹿の肉を捌いた経験は勿論無い。
丸々と横たわる猪と目が合い、その身に刃を入れることをどうしても躊躇ってしまう。
手が止まっていれば侍女頭から容赦無く鞭を振るわれ、別の侍女が捌くのを手伝うように指示される。
その侍女も勿論言葉を発することは出来ないのだが、何やら同情の視線を歌織に送る。
ここまで多くの回数の鞭を振るわれていることを哀れに思ったのだろう。
獣肉の解体のほとんどをその侍女が行い、歌織は捌かれた肉を運ぶ作業のみを受け持った。
解体後、可食部と骨や皮等の非可食部に区別する。
伊代はその獣の骨を洗うよう命令された。
獣の骨は、巫女の占いの道具として使われることがある。
太占といい、動物の骨を焼いてその割れ目から物事を占うのだ。
巫女様達の大切なお道具であるから慎重に扱うように、と侍女頭に命じられたが、猪や鹿の背骨等、一人で運ぶには難しい重さだ。
解体直後のため血で汚れて生臭いし、地面を引きずっては侍女頭に鞭で叩かれる。大事なお道具を傷つけることは恥である、と。
誰かに手伝って欲しい、と訴えることも許されない。
仕方なく重い骨を肩に担ぎ、服や頬を汚しながら一歩ずつゆっくりと水辺へ向かった。
巫女達が水行を行っている湖の対岸で、岩場に隠れながらひっそりと骨を洗う。
侍女頭の監視から離れたことでようやく緊張が解け、大きくため息を吐く。
こんな汚れ仕事を、これから毎日やらされるのだろうか。
邪馬台国に来た目的を見失いそうになり、頭を垂れて水面をぼんやりと見つめる。
ふと、伊代の背中に視線を感じる。
休憩していることが侍女頭にバレたのか?
振り返ってみるが、人の姿はない。
伊代の後ろには岩壁が立ちはだかり、小さな人工の洞窟が点在している。
風の通る不穏な音が響き、伊代の恐怖心を煽る。
急いで骨を洗い、自分の手や血のついた頬も潔めて、すぐにその場を離れた。
不気味な視線は、岩壁を離れるとすぐに感じなくなった。


