いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




「貴様ら、巫女様達に近づくとは何たる無礼か!そして来たばかりにも関わらず口煩く騒いで、言葉を発することを許されているとでも思ったのか!」

会って一言目からものすごい剣幕で捲し立て、三人を叱り始めた年長の女は、おそらく侍女頭その人だろうと伊代は直感した。

「も、申し訳ございません・・・・」
と、謝る理由はよくわからずも女の迫力に押されて、伊代は謝罪の言葉を口にする。

「私達は御国の正体を受け、奴国より遥々参りました。こちらは、我が国の姫巫女の代理を担っておられた・・・・」
「其方らに発言を許した覚えはない」
と、綺那李の丁寧な挨拶はいとも簡単に止められた。

「其方ら、己が置かれた立場をまったくわかっていないようだな。巫女の館では、我々のような側仕えをするものの行動は厳しく定められている。第一に、巫女様並びに侍女頭の許可なく発言してはいけない。第二に、巫女様ならびに侍女頭の許可なく目を合わせてはいけない。第三に、巫女様ならびに侍女頭から命じられない限り、聖なる泉とその近辺に近づいてはならない。この三つの決まりを最低限順守しなければ、其方らは明日の太陽を拝むことは出来ない」
「何それ、まるで奴隷みたいじゃん・・・・」

思ったままを呟いた歌織に対して、鋭い視線が向けられる。
巫女や侍女頭に許された場合にのみ話せる、という定めを耳にしたそばから、それに反抗する歌織の態度は目をつけられやすい。
歌織は臆することなく、女に対して睨み返した。それが仇となった。

(むち)を持て」

女はすぐ後ろに控えていた侍女に対して命令する。
侍女は無言で、植物の蔓を編み合わせた鞭を女に差し出す。
持ち手の綻び具合が、頻繁に使われていることを物語っていた。

女は両眉を吊り上げて歌織の前に立ちはだかる。
その迫力に負けじと歌織も睨みを効かせるが、次の瞬間高く掲げられた鞭が歌織の右頬をめがけて振るわれ、床に突っ伏す。

「か、歌織!!!大丈夫?」

伊代は咄嗟に歌織に駆け寄る。
怪我を確認しようと上に覆い被さる体勢になった伊代に対して、さらに鞭が振るわれる。
鋭い衝撃が背中に走り、伊代は悲鳴をあげる。
綺那李は突然のことに驚いて、腰を抜かしている。

「この地にやってきたその日の内から、このような反抗的な態度を取る者は其方らが初めてだ。私の前でまた同じ目を向けてみろ、この鞭でその目が開かぬようにしてやるわ。二発で済んだことを感謝すると良い」

女は鞭を手放し、控えの侍女に返す。
激しい怒声で三人を再び整列させ、砂利だらけの地面に膝をつくことを強要する。
伊代と綺那李は恐怖から女と目を合わせることが出来ず、歌織も同じような睨みを女に向けることは出来なかった。
三人の反抗心が見えなくなったことを確認し、女はまた話し始める。

「私は巫女の館の侍女頭、米徒那(メトナ)である。我々は女王より侍女という偉大な使命を与えられた、選ばれし者なのだ。そうでなければ所詮は奴婢 ———— 其方らのような下賤の者達に温情をかけていただいている事に、日々感謝を忘れないように。奴婢に名前は要らぬ。巫女様達が快適に、そして使命を全うされるよう、その身を粉にして働くように」

"奴婢” という言葉を耳にして、伊代は納得した。
歌織が先ほど口にした事と同義、つまり奴隷である。
身の回りの世話をする侍女というのは体のいい言葉だけで、並の人権が認められずいいようにこき使われる身分であるということだ。
女王の招待によって邪馬台国に来たはずが、ここまで最底辺の扱いを受けるとは。

難斗米(ナシメ)都心牛利(ツシゴリ)を恨まざるを得なかった。