いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




若い男の従者は、屈強な脚力で山を素早く登っていく。
後に続く女子達が着いていくのに必死になっているのに目もくれず、足元の悪い山道をまっすぐに歩いていく。

「ここ最近、こんなのばっかだ・・・・」
と歌織は早くも音を上げそうになっている。
伊代も呼吸が荒い。
二人の様子を気遣う綺那李も、まだ十歳の短い脚を懸命に動かしている。

川に沿って歩き、長い森林を抜け、青空が切り開かれる。
山頂近くまで登って来たらしく、地面は岩肌でゴツゴツとして一層歩きづらくなっている。
そして女性の声が聞こえてきたかと思うと、ようやく目的地まで辿り着いた。

山頂に位置する湖の麓で、そこは巫女達の修行の場だという。
湖といっても川が流れている訳ではなく、噴火によって自然が生み出した火山湖である。
火山岩に覆われた山肌に緑は無く、所々の岩肌に小さな洞窟があり、そこを屋敷の代わりとして使っているようだ。

巫女達は湖に体を浸し、何やら呪文のような、歌のようなものを唱えている。
恐らく、邪馬台国の巫女達流の修行なのであろう。
晴天だが標高があり、初夏も相まって肌寒い。この気温の中、湖に浸かるのは苦行だろう、と伊代は思った。
まさか、アレを自分たちもやらされるのだろうか・・・・。

「侍女頭の米徒那様へご挨拶をせよ。そこでお前達の仕事を訊け」
と、従者はそれだけ言うと挨拶もせずに踵を返し、来た道を戻ってしまった。
従者の説明は明らかに不足しており、三人は困惑し立ち尽くしてしまう。

「えっと・・・・侍女頭って、誰?どこにいるのよ?」
と歌織は、去っていった従者への質問を何もない空気へ投げかける。
「っていうか、私たちは侍女になるの?てっきり巫女の一人になるんだと思ってた」
「私もそう思ってた。思い返してみれば、巫女の館に勤めろと言われただけで、巫女になれとは言われてなかったね」
と伊代は首を傾げる。

「伊代様も歌織様も、我が国では立派な巫女様として認められているお方。これは役人にちゃんと伝えて待遇を改めてもらわないと!」
と綺那李は張り切って、慣れない地に歩を進める。
「いや、私は巫女とかじゃないし・・・・」
と歌織は呟きながら、とりあえず伊代と共に綺那李の後を追う。

周囲を見学してみれば、巫女らしい衣装を着た女達の他に、たしかに侍女らしい粗末な服装をした女もいる。
彼女達が着る麻の着物は、今朝従者から支給され渋々着た衣装と同じだった。
巫女達の周辺を歩き回り、何か言い付けられている。
まさに世話係といったところだろう。
綺那李は近くを通りかかった侍女らしい人に目をつけ、近づいていく。

「尋ねたいことがある。我らは本日からここに参ったのだが、侍女頭殿はどちらへ?」

綺那李は確かにそう言ったはずだが、声をかけた侍女は答えるどころか相手の顔を見ることもせず、颯爽と立ち去ってしまう。

「・・・・あ、あれ。もし?」
と綺那李は侍女の背中に届くように声を出すが、それも風にかき消される。
またさらに近づく別の侍女に声をかけるも、まるで誰もいないかのように通り過ぎていった。

「・・・・聞こえなかったのだろうか。別の誰かにも」
「いや、今のは無視でしょ、完全に」
と歌織は腹を立てる。

「ムシ、とは?」
「声かけてんのにわざと聞こえないフリすること。ピリついてんのかな?どちらにせよ感じ悪いよね!」
「ちょ、ちょっと歌織。声が大きいよ・・・・」
「いいじゃん、私たちの声は聞こえないみたいだし?だったら片っ端から声をかけて、侍女頭を見つけてやろうよ」

歌織は湖で修行する巫女達のもとへ闊歩していく。
売られた喧嘩は買いたくなる性分なのだ。この場合、喧嘩を売られているかどうかは不明だが。

しかし巫女達へ声をかけようとしたところで、三人は腕を強く掴まれ後ろへ引っ張られる。
先ほどの侍女を含めた数人の侍女が突然こちらへやってきて、湖から遠ざけようとするのだ。
抵抗しようと歌織が口を開けると、声を出す前に手で口を塞がれる。
侍女達は何も言わずに、力づくで三人を連れていき、やって来たのは小さな洞窟の中だった。
そこにはいかにも年長の、同じく麻の粗末な着物を着た女が待ち構えていた。