いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




京平は気を逸らそうと、話題を変える。

「難斗米さんも無事だ。今、ゴリさんと今後の旅路について話し合ってる」
「か、加真次さん、は?他の漕手の人たちも・・・・」

歌織の問いかけに、伊代と太市は顔を見合わせた。
答えづらい問いのようだ。
二人の様子を見て、京平が代わりに告げた。

「加真次は、岸にたどり着いたところは見えたけれど俺たちが到着した頃にはすでに姿は無かった。浜に足跡が残っていたが岩場で途切れてしまっていて行方はわからない」
「探しに行こうとも思ったんだけど・・・・探さない方がいいだろう。もし今回の責任を持衰が取らされることになったら、良くない予感しかしないし」
「邪馬台国の侍従二人は、舟から放り出されてから一度も見ていない」
「・・・・そう」

それ以上のことは、誰も口に出さなかった。
おそらく助からなかったのだろう、と皆解釈したが、歌織と京平は違和感を抱いていた。
まるで悪天候に導かれるかのような進路、怪奇的な持衰の祈祷と、舟の転覆直前に唱えていた言葉。その全てを、伊代と太市に共有した。

「加真次さんと漕手の二人が、直前に何か言葉を叫んでいた。歌織も聞いていたよな?」
「うーん・・・・それどころじゃなくて、あんまり覚えてないかも。でもたしかに、何かを同時に叫んでたと思う」
「同時に?祈りの言葉か何かなのか?」
「最初に何か長い言葉を言って、その後、『永遠に幸あれ』とか『永遠に導き給え』みたいなことを言っていた気がする。ただ、肝心の最初が聞き慣れない言葉だったんだ。たしか・・・・タケ、なんとか、みたいな」
「竹?」
「すまん、長くて覚えられなかった。伊代、何か聞き覚えのある言葉はないか?」
「いや、さすがに『タケ』だけじゃわからないかな・・・・」
「ただのおまじないとかだったんじゃないのか?お経とかさ、そういう類の」

結局その言葉はわからず終いとなった。
その言葉が、今後の自分たちの行方に大きく関わる存在であることをまだ知らない。

四人の輪に入れずにいる綺那李は、近くのムラから貰ってきた飲み水の甕を持って四人の様子を遠くから窺っていた。
それに気づいた太市は、手招きして綺那李を呼び寄せる。
綺那李は頭を垂れ、一言目から謝罪を口に出した。

「申し訳ありませぬ!護衛の立場にありながら、歌織様と京平様を危険な目に遭わせてしまいました。護衛としてあるまじき事にございます」
「だ、大丈夫だよ、綺那李さん。そこまで深刻に謝らなくていいって。私も京平も無事だったんだし」
「寛大なご慈悲に感謝いたします!今後はこのようなことは絶対に致しません。二手に別れるなど以ての外!大きな一隻の舟を不弥国から借り受け、漕ぎ手も倍に増やし、四名の護衛に専念できるよう整えております!」
「そこまで重く感じることはないよ。それにしても大した意気込みだな!まだ子供だと思ってたけど、すっかり大人に意見を言えるようになったんだな」
と太市が感心する。

しかし大人と対等に物を言える立場に綺那李がなった訳ではない。
そのほとんどは責任を重く感じた難斗米と、一目散に逃げ出そうとした後ろめたさのある都心牛利による計らいである。
後ろに立って不弥国の民と話し合っている姿を見ていた綺那李は、事が望み通りに進んでいるかそうでないかを確認することくらいしか出来なかったのである。

そのことを悔しく思いながらも、自分はまだまだ未熟であると奮い立たせ、こうやって意気込んでいる訳である。

「次にこのようなことがあれば、真っ先に奴国の父様から拳が飛んでくる・・・・いや、このようなことは今後ないよう、努めまする!!」

そして綺那李が報告したとおり、新たな舟の準備が整い航海を再開した。
最初の舟が嘘だったかのように大きく立派な一隻で、波の揺れも全く気にならない。
何より沖に出ることは絶対禁止とされ、白髪の不弥国出身の持衰が、それはもう穏やかに、老いた体を労わるように優しく、祈祷を行いながら安全な航海となった。

過ぎ去ってゆく不弥国の大地を見つめながら、太市は加真次の無事だけを願った。