海の中は荒れ狂い、左右にも上下にも揺らぐ波に体は呑まれた。
必死に手足を動かし水面に出ようとしたが、海に投げ出されてから思い出したのである・・・・歌織は泳げなかったことを。
パニックに陥り、口の中の息もほとんど吐き出してしまった。
その慌て様に気づいた京平がすぐさま歌織に近づき、体を引っ張り上げた。
荒れる海中で、混乱のままにもがく人間を海面に出させるのは容易ではなかった。
どこから現れたのか、難斗米も泳いできて手を貸した。その泳ぐ様は慣れた者の技だった。
海面にようやく顔を出すと、歌織は大きく呼吸を繰り返す。
しかし荒ぶる波が、なかなか息を整えさせてくれない。
京平と難斗米が辺りを見回すも、他に人の姿はなかった。
波によって破壊された舟板の残骸や、投げ出された荷物が浮かんでいる。
いずれかにしがみつくことは出来ないかと探し見るも、人間の体を預けられる様な大きさのものは無さそうだ。
「・・・・このままでは、我らも持ちませぬぞ!」
「太市達の舟はどこに行ったんだよ!」
懸命に辺りを見回すと、歌織はとある影が離れ去っていくのを見つけ出した。
後ろ姿であるため何かわからないはずだが、歌織はそれが加斗米であることを直感した。
「・・・あッ!あれ!きょ、京平!!っ・・・・あれを追って!」
「えっ??・・・・誰だ、あれ?」
「たぶんッ、加真次、さん!!・・・・はやく!ついてって!!」
「わかった!わかったから落ち着けって!暴れると沈むから・・・・」
京平は歌織の腕を首に回して掴まらせた。
僅かに捉えられるその姿を目印に、京平と難斗米は懸命に泳ぎ続けた。
舟上の揺れによって腕力をかなり奪われていたが、難斗米は泳ぎ慣れている様でその速さを落とすことはなく、京平も後に続いて目的地の見えない海の上を泳ぎ続けた。
*
気がつくと、歌織は砂浜の上に横になっていた。
目を開けると晴れ渡る青空が広がり、そして至近距離に京平の顔があった。
京平は肩で大きく息をしながら、焦りと困惑の表情で歌織を見ていた。
「歌織!歌織!!・・・・気がついた?もう大丈夫だよ!」
「驚かすなよな、マジで頭真っ白になった・・・・」
突然、一緒にいなかったはずの伊代と太市の声が降ってきたことで、歌織は急速に覚醒する。
「・・・・あれ、私、死にかけてた?」
「もうっ、心配したんだから!!京平が泳いで歌織を岸まで上げてくれたんだよ。呼びかけても反応ないし、息してるかわからなかったし、どうしようかと」
「俺もあたふたしちまって、でも京平がすぐに判断してくれたから、よかったな」
「・・・・判断って?」
歌織は京平を見るも、なぜか即座に顔を逸らして歌織から離れた。
それはまるで、自らの表情を隠すような素振りである。
「そういえばさ・・・・顔、近くなかった?」
「人命救助だっ!!!それ以上でもそれ以下でもないっ!」
と、京平はそっぽを向いてしまう。
歌織は何が何だかわからず首を傾げる。
先ほどの様子を知っている太市と伊代は、何も言わずにニヤニヤと口角を上げた。

