いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




不弥国(フミコク)から二隻の舟を借り受け、一隻に伊代、太市、綺那李、難斗米が乗り、後ろの一隻に、歌織、京平、都心牛利、そして持衰(じとう)の加真次が乗船した。
そしてそれぞれの船に邪馬台国から来た侍従が二人ずつ乗り、漕手(舟を漕ぐ者)となった。


各々が持参した荷物や、不弥国から差し入れられた食糧を積み込めば、さほど大きさのない舟はよく揺れやすくかった。
さらに持衰は、航海中は天候の良好を祈り続けなければならないようで、加真次が天に向かって手を合わせ、頭を舟床に着ける、と繰り返すと、それでさらに揺れは大きくなる。

「加真次さん、もう少しゆっくり、穏やかに祈れないかな・・・・」
と、船酔いを心配した歌織は小さく呟く。

様々な懸念点を抱えながら、二隻は邪馬台国の港へ向けて出航した。
人力で進める舟の速度はそこまで出ず、漕手を交代しながら数日の旅になる。

「本当はもっと大きな舟で、漕手を何人も用意して優雅に航海したかったのですが、申し訳ない。我々も途中、漕手を交代しなくてはなりません」
と、都心牛利は伊代と太市に説明する。
綺那李はすぐにでも役に立てるよう、腕を上下に振り準備体操をしていた。

「舟の用意は予め、邪馬台国の者が不弥国へ借りる手筈を整えているはずだったのですが、話が伝わっていなかったようで急遽用意せざるを得なかったのです。女王の来賓であるにも関わらず、申し訳ございませぬ」
「いやいや、急遽でも舟を用意してくださったことはありがたいです。話がうまく伝わってないことって、よくありますよね」
「いや、よくあってはならぬことです。何かの手違いなのか、何者かの企みが絡んでいるのか、どちらにせよクニに帰り次第、厳しく検めねばなりませぬ」

「何者かの、企みって?」
伊代の質問に都心牛利は目を彷徨わせ、何やらモゴモゴと話して誤魔化して背中を向けた。
「邪馬台国にも色々ありそうだな」
と、太市は肩をすくめる。

一方、後方の舟は加真次による持衰の祈りで、縦に横に大きく揺れていた。
船酔いの心配をし始める頃合いだが、歌織は耳鳴りに悩まされていた。
頭痛に見舞われながらも懸命に周囲を見渡し、これから起こるかも知れない "何か” を警戒する。

「耳鳴りは、酷いのか」
不意に京平が声をかける。
「あ、うん、まだちょっと・・・・」
「この前、奴国の処刑騒動で耳鳴りが起きた時の話をしてたよな。あの時と同じような耳鳴りなのか?」
「・・・・そんな気がしてる。何かはわからないけど、嫌な予感がするの。何の根拠もないんだけど」
「たしかに、何の根拠もないな。突然走り出して、剣を持った王様の前に飛び出していかないように見張っとかないと」
「ばか、そんなこと舟の上ではしないって」
「歌織なら、頭に血が上ったらやりかねない」

京平の冗談に、歌織は頬を緩ませる。
話すことによって少しの間、耳鳴りから意識を逸らす事ができた。
不快感が少しだけ和らぎ、歌織は落ち着きを取り戻す。

「もし、さ・・・・この船旅で何かが起きた場合、加真次さんはどうなるのかな」
と、歌織は必死の思いで曇天に祈りを捧げる加真次を見つめる。

「考えなくていい。その "何か" が起こらないようにするしかない。それに、俺らはこの世界で命を落としてはいけないという禁忌がある。俺たちさえ無事でいれば、加真次も無事。ただそれだけだ」

京平は舟の行く先を見つめる。
段々と視界は開け、一面に水平線が広がる。どうやら沖に出てきたらしい。
前を進んでいたはずの伊代達の舟は、東の方向に移動していた。
気づかないうちに進路を見誤ってしまったらしい。本来なら沖に出る予定ではなかったはずだ。

難斗米もそのことに気づき、漕手に東方向へ迂回するよう伝えるも、舵はなかなか切られない。
太市達は離れている事に気がつき、大きく手を振って呼びかける。
しかし舟の揺れによって立ち上がることも出来ず、漕手も迂回するどころか真っ直ぐに進み続け速度を上げていく。

いつの間にか異変に巻き込まれている事に気づいたが、時を同じくして現れた黒い雨雲が、異様な速さで舟に迫っていた。