いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




その晩、太市は伝え忘れていたことを仲間達に話した。

「そういえばこの旅に、加真次も誘ったんだ」
「え、誘ったってどういうこと?」
「加真次は釈放されているにも関わらず、行く場所がなくて唯一牢屋に篭っていたんだ。俺たちが奴国を出て行ったら加真次の生活を世話する人が誰もいなくなると思って悩んでたんだけど、加真次は昔、持衰(じとう)っていう仕事をしていたらしくて。たぶん船の操縦士か何かだと思うんだけど、今回の邪馬台国行きは船旅も入るらしいし、ちょうどいいかと思って」
「へぇ、そうなんだ。加真次さんって牢屋でいろいろ助けてくれた人だよね?めっちゃ優しい人だったし、私は賛成だね。船の操縦士のこと、ジトウって言うんだ?」
「詳しくはよくわからないけど、航海に強い人がいれば安心だろう?」
「そうかもね」

歌織はすぐにその気になり、加真次の参加を歓迎した。
伊代も首を縦に振ったが、"持衰” という言葉に疑問を持ちつつも果たしてどのような者を指すのか思い出せず、特に何も訊ねなかった。
京平は一人得体の知れない違和感を覚えながらも、何も言わずに床に着く。

太市も明日に備え就寝しようとした時、老婆が向かいの床から声をかけた。

「お前さんは良い人だね。良い人すぎるよ」
「え?あ、そうですか?」
「人と人を繋ぐ、不思議な魅力を持っておる。他人の世話を焼くのは人が良い証拠だよ。だがあまり他人に気を取られすぎない方が良い。たまには目を瞑ることも大事じゃ」
「それは・・・・俺のことを心配してくれてるんですかね?ありがとうございます」

老婆は何も返さずただニヤリと笑い、背中を向けた。
褒められたんじゃなくて、嫌味を言われたのか?太市はよくわからず、気にする事を放棄して眠りについた。





出発の朝がやってきた。
雲ひとつない快晴で見事な旅日和となり、奴国の民は姫巫女達の旅立ちに大声援を送った。
女王自ら見送りに現れ、伊代達に対して頭を下げる。
年老いた頑固な大人達も、主君に従って深々とお辞儀をした。

旅への参加を認められた加真次は晴れ晴れとした面持ちかと思いきや、いつも通りの穏やかな微笑みで、どこか寂しげに遠くの山を見つめる。

「どうした、何か不安でもあるのか?」
と太市が尋ねる。
「いやいや、不安なんて一つもないさ。すべては神々のお導きだからな。今を懸命に生きるだけだよ」
と加真次は意味深な言葉を返す。

阿湯太那ら一家も、長女の見送りにやってきた。
加陽は握り飯などの食料を用意し、綺那李や旅の一行全員に持たせた。
気遣いと母の愛に、大いに感謝した。

「綺那李、これだけは言わせておくれ。あんたが兵士である事に反対しているわけじゃない。でも男と女には、どう足掻いても越えられない差があるんだ。乗り越えようとするのは良いことだけど、"差はない" だなんて思ってはいけないよ。違いがあることをちゃんと覚えておくんだよ」
「それ、昨日も似たような事を聞いた。わかってるって」
「わかっていても、何度も言うよ。悔やんで欲しくないからね。他の方々と比べて、あんたの旅路だけ、茨の道だよ」

加陽の娘への教えを、伊代も隣で聞いていた。
性差を懸命に乗り越えようとする綺那李の姿に、伊代はとても注目していた。
大学院で目に見えにくい男尊女卑を体感したこともあり、自分が性差について敏感であるのと同時に、綺那李が立ち向かっていく姿を応援したくもある。

いよいよ別れの時間となったが、顔見知りの中に老婆の姿が無い。
伊代と歌織が別れの挨拶を言いたいと話すと、小麻李が駆け足で老婆を探し始めた。

竪穴住居、裏の井戸、土器の焼き釜、主祭殿、ムラを抜けて田畑や祭壇にも向かったが、老婆の姿はどこにも無い。
一体どこへ行ってしまったんだろう、こんな大切な日に。
小麻李は息を整え、辺りをくまなく見回す。

太陽が春の陽気を放ちながら昇っていく。
手で目元を覆いながらその様子を眺めていると、雲ひとつない空に一瞬陰りが差したように感じた。
目を擦ってもう一度空を見上げてみるが、特に変わったことはない。
気のせいだったのだろうと思い、小麻李は祭壇を降りていく。

「・・・・・あれ、誰を探しにきたんだっけ?」

小麻李は訳のわからぬまま、ムラへ戻り伊代達一行を見送った。