いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜





沈黙とモノクロに包まれた季節に別れを告げると、やがて雪は解け、草木は色を取り戻していく。
鳥や小動物たちの声があちこちで聞こえるようになり、野花が風にそよぐ音が心地よい。
春が訪れたことを知らせるようである。

人々の営みも活気を帯び、子供達はムラを囲む頑丈な柵を抜け、野山や川へ遊びに出ていく。
大人達は田畑の土を耕し、今年の田植えに備える。

朝日に向かい神聖な祈りを捧げる伊代は、葉李菜(ハリナ)や巫女達と共に、今年一年の豊作とクニの安寧を心から願う。
そして奴国を去ることが決まった今、これが奴国での最後の祈祷になることを予感し、いつにも増して伊代の祈りは強くなる。

「たしか出発は明日の早朝だったな。寂しくなるな」
祈祷からの帰り際、葉李菜が伊代に声をかける。

「葉李菜様・・・・我が女王には、何から何までお世話になりました。手を差し伸べていただかなければ、きっと今頃私たちは飢え死にしていたと思います。感謝してもしきれないくらいです」
「よいのだ。伊代殿には奴国を一大事から救ってくれた大恩がある。こちらこそ感謝をしなくてはならない。明日の旅立ちまでの間、否、旅立った後も、必要となればいつでも手を貸そう。だから、我らのことをすぐに忘れないでいてくれよ」
「忘れるはず無いじゃないですか。女王様でもそんな冗談を言うんですね」
「戯れ言ではないぞ、其方達の力になりたいのだ。邪馬台国は連合国を束ねる大国だが、その内部には何が渦巻いているかわからない。思わぬ争い事に巻き込まれぬよう、注意をせねばならぬぞ。奴国の兵士を一人、其方達の護衛と世話をさせる為に同行させて欲しい」
「ええ!そんな、大丈夫です。お気持ちは嬉しいですけど、さすがにそんなご迷惑をおかけする訳には・・・・」
「異論は聞かぬ。女王の命と心得よ」

主祭殿に到着すると、葉李菜は早速伊代達の護衛役を紹介した。
太市や京平もよく知っている兵長の側近、九真由(クマユ)だった。
邪馬台国へは使者として何度も訪れており、地の理に詳しく側近として護衛術への心得がある。処世術に長け、場を読むことがとても上手く、何より忠誠心が高い。

女王は多く語らなかったが、おそらく邪馬台国にスパイを送り込みたいのだろう、と京平は自分の脳内の中で悟った。
どんな思惑があるにしても、自分たちに対して害のあることは無いだろうと思い、四人は護衛の同行を受け入れようとする。

しかし、思わぬところから反対意見が出た。

「九真由は父上の側近として奴国を離れてはならない存在。護衛は私が適任でございます!」
そう声を上げたのは、なんと綺那李(キナリ)であった。