いつの時代も必ず君に逢いにいく 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




金印とは、古代の中国等の国々で王や高官の権力の象徴とされてきたものである。
日本では、中国と交流があるクニがその親睦の象徴として度々贈られていることが史実上明らかになっているが、実物については江戸時代に発見された一つしか確認されていない。
その金印こそ日本史の教科書に掲載されている国宝である。

刻印されている文字は “漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)” 。
"(かん)”とは中国の古代王朝の一つで、"()” は日本を指し、 "()” は奴国(ナコク)のことである。
つまり、漢の国王が奴国の王を日本の国王として認めた証であり、数多く存在する日本内の国の中でいかに奴国の権威が強かったかを表すものと言われている。

漢王朝は、紀元前206年から8年に存在したいわゆる前漢と、25年に再建され220年に()王朝の建設により滅亡した後漢の二つに分けられる。
特に四人が降り立った時代の中国での王朝は、邪馬台国と卑弥呼が現存しているという事実から魏志倭人伝を連想し、後漢の次の王朝である魏、()(しょく)の三国時代であると伊代は考察していた。

つまり、この奴国で遠くない過去に権力を拡大していた時代があり、現君主の葉李菜(ハリナ)の先祖が漢より金印を授かった可能性が高いのである。

この可能性にいち早く気づいていた伊代は、葉李菜に事実確認をしていた。
するとやはり想定内の回答を得られた。
葉李菜の曽祖父である当時の奴国王が、日本国内の内乱に講じる策として漢へ使者を派遣した。その証として "漢委奴国王印” を授かり、各国への牽制と権威を示したのである。
当時の権威は薄れつつも偉大な先祖の象徴として長年崇め、護り続けてきたのだが。

伊代はここまでの経緯を話すと、天井 ———上階を見上げた。
「その金印が・・・・この上の階にあるよ」
「上の階ってたしか、お祈りの部屋だよね。見に行ってみようよ!」
「でも、上階は巫女しか立ち入ることが許されていないらしくて、私以外の三人は入ってはいけないって言われてるの」
「そんな悠長なこと言ってられるのか?俺たちにとってようやく掴めそうな手がかりなんだ。ちょうど女王様も侍従たちも出払ってる今、この目で確かめる絶好のチャンスだ」
と京平は強気に出る。

階下では人々の賑やかな声が聞こえるが、大広間から上階に繋がる階段を含めて、葉李菜の配慮で人払いをした為人の気配がない。
四人は息を殺して階段を昇り、祈りの部屋へ忍び込んだ。

先日の落雷時の火災の爪痕が残っており、向かって奥の壁や祭壇は黒焦げのまま放置されていた。祭壇の上には小さな木の祠のようなものが設置されており、この中に厳重に金印が保管されていたのだが。

伊代は罪悪感を抱えながら祭壇に向かって手を合わせ、祠を拝借する。
燃えて脆くなった祠の取手を用心深く開くと、中には手のひら程の大きさの何か・・・・金色の塊が入っている。
それは金印だったものではあるが、丈夫なはずの金に大きな亀裂が入っていて、底に刻まれているはずの文字もほとんど解読できない状態になっていた。
祠の煤が被さり、まるで錆びたような薄汚れた金色に変色している。

「葉李菜様に話を聞いた時、すぐに金印を見せてもらえれば良かったんだけど・・・・この前の処刑騒動の時、落雷があったでしょ。この雷が比較的低い高度で二つに枝分かれしたのを目撃していた人が何人かいたの。一方は王様の青銅の剣に落ちて、もう一方はこの主祭殿の屋根に直撃して上の階が炎上した。そんな偶然あるのかなって不思議に思っていたんだけど、実は落ちたのはこの建物というよりも・・・・」
「金印に直撃したってことか」
と京平は納得した。それに伊代は大きく頷く。

「そんなことってある?雷が枝分かれして、都合よく金印に直撃だなんて」
と、歌織はまだ半信半疑である。
「考えられる可能性といえば、避雷針の原理のように雷が落ちやすい金属製のもの、周りと比べて高度があったことくらいかな」
「でもたったそれだけの条件で、雷って落ちるものかな?たまたま落ちただけ?」

「少なくとも、この金印は使い物にならない」
と京平は冷静に分析する。
「たとえこれが謎を解くヒントだったとしても、破壊されてこんなに煤だらけじゃ、俺たちの求めている "金色の宝物” とは言えないだろう・・・・逆に言えば、意図的に破壊された可能性も否めない」
「それに本来ならこの金印は破壊されず、後世で無事に発掘されて国宝になっているはずのもの。だったら私たちの時代に見ていた金印は何なのか、史実と違うことが起きているんじゃないかって心配なの」
と伊代は眉を曇らせる。

「それってどういう意味だ?・・・・歴史が捻じ曲がっているかもしれないってことか?」
と太市が慎重に訊ねる。
「その可能性もあるし、私たちのいる世界がただ単なる過去の日本じゃないかもしれない。タイムスリップっていうよりも、並行世界とか、その類い?」
と伊代は曖昧に答える。
「せめて夢だって言われた方がまだマシ・・・・」
と歌織は頭を抱える。
「どちらにせよ、現実味がまるで無いな。まぁ、そもそも最初から非現実的なことしか起きてないけど」
と太市は力なく笑う。