「伊代はどう思う?」
と歌織は隣に座る伊代に訊ねる。
「え、どうって?」
「伊代は私たちの “姫巫女様” なんだから、伊代が決めた通りに従うつもりだよ」
「いや、そんなこと言われても・・・・私は形だけだし、代理だし」
もちろん歌織の気持ちも同じだった。
奴国の人々が有り難がって与えた名ばかりの地位はただの肩書のようなものでしかなく、歌織や京平、太市が伊代を待遇良く接したことはない。
歌織は探っているのだ。
伊代が持っている歴史の知識に賭けて、この突発的なイベントを千載一遇のチャンスと見るべきか、伊代に問いかけているのである。
太市や京平からも様子を伺うような目で見られて困惑した伊代は、「少し、考えさせて欲しい」と小さな声で呟く。
向かいの難斗米や都心牛利の耳には届かない程度の小声で、二人は耳を傾けてもう一度話を乞うが、葉李菜の耳には伊代の声だけでなく戸惑いも感じ取れたようで、確かに頷く。
「難斗米殿、都心牛利殿。此度は大義である。この足元の悪い季節に、よくぞ参られた。これから奴国は雪も深くなるだろうから、帰国できる季節までゆるりと休まれよ」
葉李菜は、邪馬台国の大使達を下がらせる。
さらに気を利かせて、ムラ長や侍従達もすべて下がらせ四人だけで話せる空間をお膳立てし、主祭殿の外へ出て行った。
「四人だけでちゃんと話し合うの、久しぶりじゃね?」
と、太市が第一声を発する。
「そうだね。寝泊まりさせてもらっている場所が違うと、あんまり話できないよね。兵長や綺那李さんから聞いてるよ、囚人達の解放プロジェクトをやってるんだって?」
と、歌織が興味深く尋ねる。
「そんな大したことじゃないよ。俺たちも牢獄にお世話になっていた身だし、短い間でも一緒に寝起きしていた彼らの力になりたいと思って、出獄後の世話をしてるんだ。京平が葉李菜様に提案して、認められたんだぜ」
「京平が自ら提案したの?女王様に向かって?すごいじゃん!さすが行動力は並外れてるね」
「別にいいだろ、その話は」
と、退屈そうに京平は話題を変えようとする。
それすらも歌織は、「照れてる」と言って茶化すのだが。
「そんなことより、今後どうするか話し合うのが先だ。ずっと奴国で平和ボケしながら暮らしてても、元の世界に戻ることは出来ないからな」
と、冷静に状況を俯瞰しようとする京平の言葉は、棘を含んでいるように受け取れる。
「平和ボケって、何よ。京平はボケているかもしれないけど、伊代は姫巫女様の代理を任されてるんだよ。巫女としての仕事をしながら奴国の人々と交流して信頼を得て、"異国人" 呼ばわりされなくなったのは伊代のお陰なんだから、少しは感謝しなよ」
「歌織、誇張してるって・・・・みんながそれぞれの場所で活躍しているから、奴国の人たちに受け入れてもらえてるんだと思う」
と、伊代は遠慮がちに呟く。
「で、その "姫巫女様代理" は何か考えてるのか?」
「・・・な、何かって?」
「俺たちの中で圧倒的に日本の歴史に詳しいわけだし、はじまりの城で侍のおっちゃんが言っていたことの謎を解き始めてるんじゃないかと思って。どうなの?」
と、京平は攻め立てるように問いを投げる。
「いや、今は、何も・・・・」
「まあまあ京平、落ち着こうぜ。伊代の知識を借りつつも、結局は四人で考えていくべきだよ。伊代一人が負担に感じる必要はないからな?」
と太市は伊代を気遣い、フォローを入れる。

