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その頃、京平と太市は牢獄にいた。
二人の罪は随分前に解かれていたが、自分たちの帰る場所に困り、伊代と歌織が世話になっている阿湯太那の自宅も定員超過で寝る場所がない。
阿湯太那の気遣いで兵舎の一部屋を使わせてもらい、兵士たちと共に寝起きをしていた。
日中は牢獄で、正式な再詮議により釈放となった者達のこれからについて世話を焼いていた。
収監されていた者達の多くが、先王時代に宣告された罪よりも軽い、または無罪であり、牢獄に残るよう言い渡された者はほとんどいなかったのだ。
京平と太市は自ら手を挙げ、彼らが故郷のムラに帰ったり、人手を必要としている場所へ奉公に出られるように尽力した。
しかし一人だけ、釈放の許しを得たにも関わらず牢獄に残りたがっている者がいた。
加真次である。
故郷のムラの名前を訊ねても口に出さず、いくつか奉公先を提案しても首を縦に振らない。
みんなが地獄のような牢を出られて喜び踊っている中、加真次だけは牢を出た後にやることに迷い、不安を感じ、今まで通りの最底辺の生活でよいと言って動かなかった。
阿湯太那らの意向としては、囚人ではない者が居着いてしまうとその分食事などの世話が必要になる為、すぐにでも出獄後の世話をするべきとしている。
本人が拒めば、力づくでも追い出すとも話していた。
「無理やり追い出すなんてしたくないよな」
太市は牢獄内の掃除をしながら、京平と論議する。
ちなみにこの誰もやりたがらない掃除ですら、自ら提案して引き受けた大事な仕事である。
「短い間でも加真次は一緒に牢で過ごした人だし、京平が倒れた時に助けてくれた優しい人だしさ。それを無理やり追い出すなんて、俺には出来ないよ」
「相変わらずお人好しだな、太市は」
「それは褒め言葉だよな?」
「阿湯太那兵長は、 "釈放を言い渡された元囚人" はすぐに追い出すと言ったんだ。俺たちもそうだろ。囚人が全員いなくなれば、次は俺たちの番だと言われてもおかしくない。呑気に人の心配をしている暇はないだろ」
「いや、さすがに俺たちは大丈夫じゃね?葉李菜女王の客人ってことになってるし、奴国を救ったって言われてるし」
「奴国を救ったのは伊代と歌織で、俺たちは遠くからそれを見守っていただけだ。ただの異邦人に役目がなくなれば、お払い箱になるだけ。ここを追い出されたらどうしていくか、ちゃんと考えてるか?」
「いや、何も・・・・。ごめんな、俺は京平ほど頭よくないからさ、危機察知能力が低いんだわ。だからさ、俺は加真次のこれからを考えるから、京平は俺たちのこれからを考えるってので、どう?」
「は?なんでおまえは自分のことを考えないんだよ」
「お願い!京平を頼りにしてるからさ。加真次は俺たちが見捨てたら誰も頼れないし、何とかしてやりたいんだよ」
太市のお人好しぶりに、京平は盛大にため息をつく。
いつだって自分のことを後回しにして、他人のために動くような人物である。
だからこそ学生時代は、性格の違う四人を束ねる役目を担ってきたし、京平もそれを十分理解し、感謝していた。
京平はそれ以上太市に反論することはなく、牢獄の床を掃く作業に没頭する。
少しして、綺那李がやってきた。
さも兵士の一員であるかのように、牢獄の掃除の様子を確認しに来たのだと言って見回り始める。見回りとは言っても、太市たちと雑談をするだけなのだが。
「綺那李、本当にお父さんに言われたのか?」
「そうだ。父である兵長からの任務で、太市様や京平様の様子を報告しなければならないんだ」
「ってことは、あれほど反対していたお父さんがようやく、綺那李を兵士として認めたってことなんだな?」
「ま、まぁ、そうとも言える・・・・かもしれない」
綺那李の言葉の濁し様に、彼女が嘘をついていることを察知する。
あの頑固で曲がったことが嫌いな父親の考えを変えるのは、愛娘であろうとそう容易いことではない。

