しかし予想外の優しい手が、小麻李の頭に触れられる。
「そうだったの、残念だったね。また作る機会が来るまで、もっと土笛を一緒に研究しよう」
「あ、あれ・・・・怒らないのですか?」
「怒る?どうして?」
「だって、あんなに楽しそうに土笛作りに夢中だったのに。歌織様の初めての土笛を、私が不注意に落としたんだから、もっと目を釣り上げて怒鳴るかと思ってた」
「私って、怒るとそんなに怖そうな印象なの?おもしろいこと言うね。でも、小麻李がわざとやったことじゃないんだし、これは私の土笛じゃなくて、私たち二人の土笛だから。楽器を作ることは楽しいけれど、それ以上に小麻李とおしゃべりするのが好きだったから、私は夢中になったんだよ」
「本当に?・・・・私のこと、嫌いにならない?」
「だから、何でそんなに深刻そうになってるのよ。友達のことをキツく責める趣味は持ってないから、安心してよね」
小麻李は大いに安心し、我慢して止めていた涙腺がふと緩み、また泣き出してしまう。
歌織は困った様に笑い、小麻李を抱きしめて慰める。
二人の姿を見て、伊代も同じく安堵した。
"友達” として悩みを打ち明けることに、抵抗する必要はないのだと。
悩みを話したところで、相手は同じ温度で悩んでくれるのかはわからない。
しかしそれを自分が懸念する必要はない。すべては相談された相手が決めることだからだ。
自分は相手を信じ、飾らない自分の言葉で伝えさえすればよいのだ、と。
小麻李がひとしきり泣き、表情をスッキリさせたところで、伊代の方を振り向く。
「伊代様も、歌織様に打ち明けることがあると言っていました」
「どうしたの、二人揃って。今日は秘密を打ち明けなければいけない日、とかなの?」
「そんな日は奴国にはありません」
「冗談だって」
と歌織はいたずらっぽく小麻李に笑いかける。
小麻李は先刻、土笛を作るようになってから歌織の初めての笑顔を見たと言っていたが、奴国の一員として人々の生活に溶け込むようになって、ムラの人々を他人だと思わなくなったからこそ、歌織は安心して笑えているのではないか。伊代はそう確信した。
それならば長年の友達である伊代も、歌織といつまでも打ち解けられるよう努力をする必要がある。
「ずっと歌織に、伝えてなかったことがあるの」
「え、私にだけ?ひどいじゃん。それはそれは大層な秘密なんだろうね?」
と歌織はおどけながら腰に両手を当て、怒っているかのようなポーズをとる。
「歌織にだけじゃない、太市や京平にも言ってないの。言うかどうか悩んだんだけど、もしかしたら私たちが元の世界に戻る為のヒントになるんじゃないかと思って」
伊代がここまで話すと、さすがにおどけていた歌織は表情を締め、真剣な顔つきになる。
「そこまで重要な話かもしれないのに、なんで今まで言ってくれなかったの?」
「ごめんなさい、私もわからなくて。それに不安だったの・・・・あまりにも非現実的なことだから、信じてもらえるのか、私の勘違いだったらどうしようって」
「伊代、不安にならなくていいんだよ。私たちがいるこの世界がすでに非現実的なんだから、魔法でも超常現象でも、何が来ても私は真剣に聞くよ。私の知ってる伊代は、勘違いで話す人じゃないんだから、些細なことは何でも話していいんだよ」
「・・・・ありがとう、歌織。ほんとにごめんね」
「え?なんで謝るのよ。ちょっと・・・・なんで伊代も泣き出してるのよ」
先ほどの小麻李に釣られて、伊代も涙腺を緩ませる。
歌織は驚きながらも、笑って伊代の肩を撫でてやった。
三人の泣き笑いの背後に、場違いな男の影が現れた。
背中に鋭い視線を感じ振り向くと、それは小麻李の父、阿湯太那だった。
「伊代殿、歌織殿。女王がお呼びでございます。京平殿と太市殿も一緒にお連れするようにと」
突然の呼び出しに二人は戸惑う。
しかし歌織は「ちょうどいいよ。京平と太市もいるなら、二人も一緒に伊代の話を聞いてもらった方がいいかもしれないし」と、伊代に助言する。
伊代は涙を拭い、二人は阿湯太那の後ろについて主祭殿へ向かった。

