タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜





巫女達の足跡が遠くへ消え、辺りは冬の冷たい空気がうっすらと響くだけで静かになった。
それを待っていたかの様に、小麻李は口を開く。

「この前の収穫祭の宴の時から、歌織様と一緒に土笛を作り始めたのです。歌織様は音にとてもお詳しくて、どうしたら良い音色の土笛を作れるのか、ずっと試していました。ようやく良い出来の土笛にする方法を考えついて、母様から釜を使っていいってお許しももらって、歌織様は飛び上がって喜んでた・・・・それなのに、小麻李が割ってしまいました」
「そうだったの。でも、わざとではないんでしょう?」
「夜遅くに目が覚めて、どうして気になって眠れなくなって。暗い夜道を一人で歩いて土笛を取りに行きました。黙って家を出てきたから急いでいて、目の前に井戸があるのに気づかなくてぶつかって・・・・気づいたら焼いたばかりの土笛は真っ二つに。せっかく一生懸命作ったのに、歌織様が土笛を形作っている時、笑った顔を初めて見ました。だから何て伝えたらいいかわからなくて・・・・」

小麻李は途中、嗚咽を堪えながら話していた。
涙を流しながらも決して拭わず、鼻水と細い呼吸のせいで途切れ途切れになりながらも、自分の言葉でしっかりと伊代に説明した。
七歳でありながら、甘えも泣き言も無いその姿に、伊代は肩を抱いてやりたくなる。

「そっか。割ってしまったなら仕方ないよね、いつかは歌織も気づくだろうし。歌織が怒る前に、正直に言って謝った方がいいね」
「でも、歌織様はきっとお怒りになる・・・・怒ると怖そう」
「たしかに、口調が強いところはあるよ。真っ直ぐで取り繕わない人だから、傷つく様なことを言われたこともあるけれど」

伊代は、謝罪に迷う小麻李の姿を自分と重ねる。
歌織と出会った学生時代から、彼女の気の強さに驚かされることも少なく無かった。
5年の付き合いとなった今でも、どこか歌織に対して気後れしているところがあるのかもしれない。
伊代の不思議な夢の件を身近な友である歌織に打ち明けられていないのも、伊代の自信の無さのせいではなく、歌織に対する無自覚な苦手意識にあったのではないか。

「私もね、実は歌織に言えてないことがあるんだ。一緒に話してみない?怒られるかもしれないけれど、二人で一緒に怒られれば、少しは気持ちも軽くならないかな?」
「そんな、伊代様のお手を煩わせるようなことですから・・・・」
「何も煩うことはないよ。それに私の話だって勇気がいることなの。小麻李ちゃんが背中を押してくれたら心強いな」

小麻李は伊代の言葉に安心したのか、涙を拭いてすっくと立ち上がった。
二人で巫女の列に追いつき、朝の祈祷を行ってから、ムラへ戻り歌織のもとへ真っ直ぐに向かった。
歌織はちょうど釜の前におり、手作りの土笛が失くなっていることを知った直後のようだった。

「歌織様、ごめんなさい!」
と小麻李は深く頭を下げる。伊代は後ろからその小さな背中を見守っている。
「私が土笛を割ってしまったのです。勝手に一人で釜に来て、土笛の出来栄えを確かめようと思って焦ってしまって。せっかく釜を使わせてもらったのに、楽しみにしていたのに、本当にごめんなさい」

歌織から返事があるまで、小麻李は頭を下げ続けた。
歌織がどのような表情をしているのか、小麻李にはわからない。
ショックを受けているか、怒りに顔を赤くしているか、小麻李は想像して体を震わせている。