「邪馬台国から、女王様の使者が来ているそうです」
と、小麻李は歌織に教えた。
歌織は、小麻李と共に作った土笛を吹いていた。
収穫祭の後、小麻李に作り方を教わって歌織だけの土笛を焼いた。小麻李も歌織の言う通りに土笛を作り直し、二人で時間を見つけては土笛の練習をしていた。
どちらが師ということもなく、小麻李はこの時代の土笛の嗜み方を表し、歌織は持ち合わせていた音楽の知識を伝え、二人で試行錯誤していた。
二人だけの練習時間は、それぞれ慣れない弥生時代の生活や巫女修行の息抜きとなっており、大切な憩いの場だった。母親である加陽も多めに見ており、音楽に興味の無い綺那李は時折遠くから羨む視線を向けている。
この日は土笛の稽古をし、休息を取っていた。
「邪馬台国の女王様が使者をお遣わしになるのはとても珍しい事だって、母様が言ってました」
「へぇ、そうなんだ。邪馬台国ってどこにあるの?」
「小麻李もわからないけれど、ものすごく遠くだって」
とても賢くしっかりした七歳であるから時に忘れそうになるが、あくまで小麻李は七歳である。現代でいえば小学校に入ったばかりの年齢だ。
それにこの時代、生まれ育った故郷を離れることはそう容易くなく、一生をクニの中で終えるのが普通だ。
奴国の外の世界を測ることが出来ないのは、小麻李には当然のことだった。
「邪馬台国って、めっちゃ有名なクニだよね。たしか、卑弥呼様、とかいるよね?」
と、歌織は少ない歴史の知識を小麻李に披露する。
「そう。邪馬台国の女王様の名前です」
「超有名人だよね、そんなにすごい人なんだ?」
「小麻李は会ったことがないから、わかりません」
「そりゃ、そうだよね・・・・」
小麻李は、改良した自分の土笛を吹く。
土笛は数種類の少ない音しか出すことが出来ない。それに加えて、拍子やメロディという概念も無いため、ロングトーンのように二、三音を長く吹く演奏方法のようだ。
現代のポップスに慣れている歌織にはどこか物足りなく感じるが、さらに改良しようにも、冬の時期のためどの家でも薪は貴重であり、新しい土笛を焼くためだけに釜に火を焚べてくれる人はいない。
歌織も重々承知していたため、今手元にある楽器だけで小麻李の吹く音を聴き、真似て演奏している。
退屈かと思いきや、歌織はこれでも十分に演奏を楽しんでいた。
それは久々に楽器に触れられたという喜びもあるが、小麻李が奏でる音色は馴染みのある旋律だった。
「この曲ってさ、有名な曲なの?みんなよく吹いてる?」
「母様から教わりました。ムラのみんなで吹く時も、よく吹いています」
「奴国の民謡?その、このクニに昔から伝わる曲なのかな?」
「さぁ・・・・でも婆様たちも知ってます」
歌織が耳にしたことがある時といえば、それは土笛の演奏では無い。
あの不思議な耳鳴りだ。
ただの耳障りな音ではなく、頭の中でつんざく様な音には音階があった。つまり、耳鳴りには音楽の様に旋律があったように思うのだ。
一つの音楽の様に強弱があり、波の様にうねり、それが何かを表し歌織に伝えようとしているように感じたのだ。
しかしあの野分の一件以降、伊代の不思議な夢と同じ様に耳鳴りは起きていない。
また再発する可能性もあるが、歌織はその正体を知りたかった。

