タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




歌織が家に戻ると、小麻李の姿が見えないのだと綺那李に告げられた。
先ほどの土笛の件の後、どこかへ走り去ってしまったらしい。
綺那李は思い当たる場所があるらしく、謝罪を兼ねて歌織も付き添うことにした。

綺那李が連れてきたのは、ムラの中心部から少し離れた小高い丘だった。
周囲に草が生い茂るのに対して、その丘は地肌が剥き出しになっており崖のように急斜面になっている。
夜の暗い時間に訪れている為歌織には分かりづらいが、ここは奴国で赤土が採れる数少ない場所の一つである。

「母様やムラの女達は度々ここにやって来て、お椀や皿を焼くのに使う赤土を採るんだ。私や小麻李も連れて来てもらう事はあるが、丘が急斜面になっていて崩れる心配もあるから、一人で来る事は禁じられているんだ。でも恐らく、ここにいるはずだ」

綺那李の話を聞き、歌織はなぜここに小麻李がいる可能性があるのか理解した。
推測の通り、すぐに小麻李の姿を見つけた。
赤土の崖に向かい、小さな手で懸命に赤土を掻き集めている。

先程歌織に土笛を取られ、無理に変形させられそうになった事を根に持っているのだと、歌織は思った。幼い小さな手で土笛を作り直そうとしているのだろう。
土を削る道具も無しに採取する事は困難なはずだが、小麻李は黙々と作業している。

「小麻李、夜に出歩くなんて危険だよ。一人でここに来てはいけないって、母様に言われていただろう」

綺那李が諭すも、小麻李は返事をせず土の採取を続けている。

「小麻李ちゃん、ごめん。さっきは私が自分勝手だったよ。機嫌を直して、家に帰ろう?」
「土笛は作り直さなくても十分だって。それに今作ったところで、一人で焼くのは難しい」

小麻李は二人に向き直り、赤土で汚れた手を払う。

「怒っている訳ではありません。それに作り直すんじゃなくて・・・・これは歌織様の分です」
「え、私の?」
「小麻李の土笛はもうあるから。あの土笛は、母様や婆様と一緒に作った大事な笛なので、変える気はありません。でもきっと、歌織様は歌織様の土笛が必要だと思ったから。一人で勝手にここに来て、ごめんなさい。でも、歌織様の土笛作りを手伝うから、母様に焼き窯を使わせてもらえるよう一緒にお願いして?」

小麻李の瞳には決して不満や憤りは無かった。
ここまで人に対して純粋な思いを傾ける事が出来る幼子はいない、と歌織は思い感激する。

「うん、一緒にお願いしよう。ありがとう、小麻李ちゃん。私に土笛の作り方を教えて?」
と、歌織は小さな頭を優しく撫でる。

落石の注意を払いながら赤土の採取を三人で行い、帰宅後に形成をした。
赤土に少しずつ水を含ませながら捏ね、固まってきたところで形を整え、中が空洞の球体を作る。
そして外から穴を四つほど開け、演奏する際の指を置く場所を作る。

加陽に事情を説明し、翌朝から焼き窯を使わせて貰えるようになった。
途中から伊代も加わり、夜の楽しいひと時によって四人は友情を深め、翌日理想の土笛が出来上がる事を夢見ながら就寝した。