人々の酒の勢いが増し、次第に活気がついてきた。
自ら踊りを志願し、人々の前で笑いを取る者が登場し始める。
襷を繋ぐように、何人もの男達がそれぞれの踊りを披露し、それを肴に酒を煽る。
赤面の太市は、いつもの冷静さをどこに置いてきたのか、自ら挙手をして人々の前に出る。
客人の堂々たる姿に、酔った男達は歓声を上げる。
「ちょっと、太市。酔っ払ってるんじゃない?」
と、歌織が忠告をする。
「らいじょうぶ、らいじょうぶだって。現代のダンスの凄さを見せてやろうぜ。なぁ?」
「言ってる意味がわからないんだけど」
人々の煽りに乗って正面に躍り出た太市は、腰を捩り、足を左右交互に滑らせる等し、 "現代のダンス” とやらを弥生の民に見せる。
確かに現代の日本のアーティスト等がよく踊る基本的なステップではあるものの、ほぼ酩酊者と言って良い彼の動きにキレの良さは皆無で、歌織は口をあんぐり開け、伊代は反応に困り両手で顔を覆い、京平は無視を決め込んだ。
しかし彼らの反応とは裏腹に、酩酊者の舞は弥生の民にはウケたようで、太市の横に並び動きを真似る者が続出した。
その内、場にいるほとんどの者が同じ踊りを舞い始めたので、事態の収集がつかなくなるほどだった。
ようやく阿湯太那によって踊りを中止させられ、人々は腰を落ち着かせた。
「太市、あんなに人前で騒ぐ姿初めてみたよ!」
と伊代が太市に声を掛ける。面白がりながら話しかけるが、太市本人は人の話に耳を傾けられる状態じゃない。
「太市、どうかしたの?」
「・・・・は、吐きそう」
太市の微かな声を聞き、伊代は青ざめる。
歌織たちに声をかけ、すぐさま人の少ない主祭殿の裏手へ太市を連れ出す。
井戸を見つけ、脇で草の生い茂る場所に太市をしゃがみ込ませ、伊代は水を汲み、世話に追われた。
太市がこの状態になるまで酒を飲む姿を見るのは、これが初めてだった。
大学時代は何度も共に飲んだが、酔い潰れた事はなく、大抵酔い潰れた友達の世話をし、家まで送り届ける役割を買って出ていた。
なので太市は酒に強いのだとばかり、伊代は思っていた。
「弥生時代のお酒が合わなかったのかな」
と太市の背中をさすりながら、伊代は呟く。
「そこまでアルコール度数強いと感じなかったけど。いつもよりお酒のペース早かったかな?」
草むらで一通り体調不良の原因を流し、井戸の水を浴びて落ち着いた太市は、草むらに腰を下ろす。勿論、嘔吐した場所から離れたところで。
「ありがとう、伊代。悪いな」
「このくらい全然大丈夫だよ」
「大学の時は程よく嗜んでいたけどさ、最近悪い飲み方が習慣になっちゃって。悪酔いしないペースで飲むってのが難しくなってさ。ダメだよな、社会人なのに」
「それって・・・・会社に就職してから?」
「そう、かもな。飲み会とかめっちゃ増えたし、毎日のように飲んでる。気をつけないとな」
伊代は、それ以上は追求しなかった。
しかし様々な可能性は脳裏によぎった。酒の過剰摂取は中毒症状を引き起こすし、それが習慣づいているとしたら心身ともに健康を害する可能性がある。
好きで酒を飲んでいる場合に限らず、もし半強制的に飲酒を促されていたのであれば、飲酒の度に拒絶反応を起こすとも考えられる。
しかし太市は大事に捉えたくないようで、目の前に広がる星空に視線を移した後、話題を逸らしてしまった。人の触れられたく無い部分に触れる勇気は、伊代にはまだ無かった。
いずれまた問題が起こった時に相談すれば良い、そう自分の中で解決した。

