主祭殿前の大広間では、大きな焚き火が起こされている。
五穀豊穣に御礼と祈願をする祭りであるが、それを妨げる魔や障を遠ざけ、祓う意味が焚き火に込められている。
また、この時期の夜間は肌寒さが増してくるため、人々の暖をとる目的もある。
女達や子供は焚き火の前に並び、歌や楽器を奏で始める。
土で作った球体の中を空洞にくり抜き、穴を三つほど開けて釜で焼いた "土笛” は、子供達に人気の楽器になっている。見た目は現代のオカリナに似ており、作り手や形によって出る音が異なる。
竹の筒に凹凸をつけ、細い棒で上下に滑らせて音を奏でる "棒ささら” は大人の女達によって奏でられる。
これらの楽器を一斉に奏でようにも、音程や音色は均一でない為、合奏と呼べるには程遠い。幼い頃から音楽に触れている歌織からすれば、彼らの演奏は不協和音と言える。
「ピッチが酷すぎる」
歌織は両耳に指を突っ込む。
「聴いてられないよ、弥生人には音感がないわけ?」
「3歳からピアノ教室にでも通わせないと、難しいだろ」
と京平は皮肉を口にする。
そこへ小麻李がやってくる。
その手には、整形の段階から自分で作った土笛が握られている。
「歌織さん達も仲間に入れてって、母様が」
と、小麻李は焚き火の奥で酒を手に羽目を外している母親を見る。
どうやら加陽は、子供達を気にする事なく楽しむ時間が欲しいようだ。
歌織は小さな土笛を奪い、唇に近づける。
一吹きすると、容易に音が出た。音程が正しいかどうかはともかく、楽器を吹く心得が歌織にはあった。
「すごい、初めてなのに上手!」
と伊代は称賛した。
「そりゃそうだよ。中学の時、吹奏楽部でフルート吹いてたから」
と歌織が話すと、小麻李はわかりやすく困惑顔をしたので、歌織は昔話を控えた。
二吹きすると、歌織はコツを掴み、全ての穴から出る音を聞き分けた。
その上で息の量によって僅かな音程の調節を試みたが、陶器の笛ではこの作業は難しかった。
「ちょっとさ、穴を開けてみてもいい?」
と、歌織は近くに落ちていた石を見つけ、興味本位で土笛に石を当てる。
小麻李は驚いて歌織の動きを止めようとする。
「穴を少し大きくするだけ。ちょっと試してみるだけだから」
と、歌織は小麻李の制止を聞かず、石を高く掲げ土笛目掛けて振り下ろそうとする。
土笛の穴は勿論、焼き固める前の泥の状態で開けるものであり、焼き固めた後から変形させようものなら割れてしまうだろう。
歌織と小麻李の掛け合いを見ていた京平は、即座に歌織の手から石と土笛を奪う。
「ちょっと、京平?」
「持ち主が嫌がってんだろ」
と、京平は小麻李に謝り、土笛を返す。
小麻李は土笛を隠すように、その場を離れてしまった。
「今のは強引すぎだろ」
「た、たしかに・・・・でもちょっと試してみたかったの」
「自分が作ったやつで試すなら構わないよ。でも小さい子のおもちゃを奪うなよ。音が酷かったとしても、この時代の価値は音には無いかもしれないだろ」
「そうなの?・・・・聴くに耐えなかったとしても?」
「それは歌織の価値観だろ」
「じゃあこの時代の人の価値観って何?」
「知る訳ねぇだろ、俺は弥生の人間じゃないし」
「知らないのに弥生人の事どうこうって言えるの?」
「おまえには想像力ってものがねぇのかよ」
熱が入り始めた二人の口喧嘩を、伊代が割って入る。
「二人とも!いつものことだけど、もう少し落ち着いて。今日は宴なんだよ?他の人たちに不審がられるって」
「どうせ酔っ払いの喧嘩だと思われるでしょ、大事ないよ」
三人の空気がヒリつく中で、うまい具合に酒の入った太市は、呂律の回らない口元に微笑みを浮かべている。
「京平ぃ、牢屋にいるときは無口らったのに、もお歌織と仲直りした?いいねぇ、俺らちの友情、最高!」
太市の空気を読まない能天気な発言に、凍った空気も一瞬で消え去り、歌織と京平は酒を飲み直した。

