「じゃ、まずは志望動機をお願いするっス」

「バッカ、そんなもん遊ぶ金欲しさ以外にあるわけないだろ。出れる時間帯はどこ? フロアとキッチンどっちがいい?」

「うん、なんでいるのキミ達」

 事務所には、面接希望の子ひとりに対して、店側が三人という圧迫面接のような見た目になっている。小さな木製テーブルとイス四脚。三方向から質問が飛んでくる。

「なんでって、だってめっちゃ美少女っスよ! 店長が警察に連れていかれるの見たくないんです」

 机を叩いて立ち上がりアニーは主張する。

「なんで手を出す前提なのかわからないけど、キミ達、今はバイト中だからね」

 この間にも給料は発生している。店の方は比較的空いているとはいえ、ホールはカッチャひとりでなんとかなるわけではないだろう。せめてどっちかだけでも戻ってほしい。

「なんか困ったことがあったら、俺を頼ってくれ。ビロルだ、よろしく」

 と、ビロルは少女に握手を求める。女子供には甘い、と自負してはいる。これだけ可愛ければ、色々と周りからも甘やかされてきたはずだ。でも兄貴ぶんとして、可愛い子でも働くときは厳しくする。よく言うだろ? 『甘いものは別腹』って。

「いや、なんの話!?」

「? なんスか店長、いきなり」

 誰もなにも言ってないのに、いきなりツッコミだした店長の不安定な情緒をアニーは心配した。

「あ……いや、ゴメン」

 あまりにも彼らに翻弄され続けすぎて、心の声が幻聴として聞こえてきている。ダーシャは、言われた通りやっぱりちょっと休みが必要なのかもしれない、と頭の隅に考え始めた。

「いやー、よかったっスね。『代返くん』があるおかげで、店長が休んでもなんとかなりそうです」

 と、アニーはICレコーダーを手に、自慢げにかざす。数百時間の録音と編集を重ね、生み出された仮の店長『代返くん』。別にアニーが面接の電話を引き受けてもいいはずだが、なにかあったときに責任は取りたくない。

 ダーシャはよく考えたら、体調を気づかったのも彼らだが、心身の疲労の原因も彼らだ。感謝するのは間違っている気がする。

「あの……」

 少女そっちのけで会話をしてしまい、アニーは、しまった、と謝罪した。

「申し訳ないっス。いやー、それにしても本当に可愛いっス。眼福、ってこのことですね。ビロルさんを見てからだと、より遠近法が狂ったのかってくらい顔も小さいですし」

「さらっと失礼なこと入れるな」

 彼女の名前はユリアーネ・クロイツァーというらしい。白く透けそうな透明感のある肌、ミルクティー色の艶のある髪、ぽってりとした桜色の唇、色素の薄いグレーの濡れた瞳。モデルか芸能人の仕事と間違えて応募してきたのではないかと怪しむほど、完璧すぎる容姿だった。