「あ、それ、ボクっス。あちち」

 と、いつの間にかティーカップを持ったアニーが横から入ってきた。今日はアップルティーの気分。

 真顔で瞬きをせずに、ダーシャは確認をとる。あれ? 僕なんかおかしい?

「うーん、まず一個一個聞こうか。ボクっス、てのは?」

「言葉通りっスよ。全く、その頭の部分についてんのはカボチャっスか? 以前バイト募集の電話があったので、ボクが引き受けたってわけです」

 さらっと悪口も追加されていた気がするが、とりあえず二個目の気になる点。

「男性に、っていうのは? 僕の見た感じ、アニーちゃんは男性じゃないよね? なんでこんなことになっちゃうのかな?」

 はぁ……と、大きくアニーはため息をつき、ポケットからICレコーダーを取り出す。

 なんとなく、今までの経緯からして色々とヤバいような気もするが、ダーシャは恐る恐る問うてみる。聞かない方がいいかもしれない。

「……で、どういうこと?」

「なにかあったときのために、店長と会話するときは、以前から常にレコーダーを回してるんスよ。それでーー」

「落ち着いて」

 アニーの言葉を遮り、ダーシャが一回ストップをかける。信頼が音を立てて崩れていく。

「常に、何してるって?」

「だから、消費者センターに駆け込むってなった時に証拠がいるじゃないっスか。その時のための録音です。他意はないっス」

 他にさらに意味があったら、いよいよダーシャの精神の摩耗が気になってくるが、まずはひとつ。

「んーー、そんなことしてたの。へぇ。で、男性の声ってのは?」

 もう、ちょっとのことでは彼女に動じなくなってきている自分にダーシャは驚いた。録音されていることがちょっとなのかはわからないが、些細なことなのだろう。そうしないと先に進まない。

 アニーがレコーダーをポチポチと操作すると、一瞬間を空けて、音声が流れ始めた。

『オ、デェ!ン……ワァァ……ありがとうございます』

「なにこれ!?」

 ダーシャは驚いてレコーダーを取り上げ、凝視する。そこから流れてきたのは、ところどころぶつ切りとなっていて違和感があるが、紛れもなく自分の声である。

 自慢げにアニーがキッチン内を歩き始める。

「苦労したっスよ。店長あんまり電話に出ないから、決まり文句すら収録されてなくて。編集でなんとかうまくいけたっス」

「いや……そもそもなぜかいつの間にかキミがフロアにいないから、僕がフロアにいて電話には出れないんだけど……」

 さらに再生を続ける。

『ウケタ、マワ、りました。オ!マチ……しております』

 なぜか語尾の方は滑らかなのは、常に言う言葉なので、サンプル採取が楽なのだろう。さらにポチポチ押していると、

『ウメル…ゾ!?』

「いや、なんでこんなのもあんのよ!いつ使うのよ!」

「結構使ってますよ。感謝の言葉よりも多いかもしれないっス」

「なんで!?」

 息を切らしてツッコミ終えると、ダーシャは事態の全体図を掴みにかかる。