ダーシャがフロアに出たり厨房で調理したりと、大車輪の動きを見せてなんとか回せている。さらにふと気づいたらいなくなるスタッフの捜索。てんてこまいだ。

「ほら、女子供には優しいから、俺」

 全く理由になっていない理由を言い訳し、ビロルはキッチン作業に戻る。ついでに、出来立てのフィグトーストをダーシャに手渡す。

「なに? これ? 注文?」

 頭に疑問符が浮かんでいるダーシャが聞き返すと、「それなんですけど……」とビロルは、若干言いづらそうに続ける。

「出来上がったんでアニーに渡したら、レモンティー淹れて一緒に食べちゃったんですよ。笑っちゃうでしょ?」

 HAHAHA! と、底抜けに明るく、手を叩いて笑う。

 と、そこへ足早にアニーが戻ってきて、血相を変えて叫ぶ。

「店長! フィグトーストがまだきてないってお客さんが若干怒ってます、店長が床に落としちゃって、新しいもの作ってるって言ってあるんで、早く謝ってきてください!」

 五秒ほど静止。した後、事態を把握し、顔が青ざめる。

「キミたち馬鹿でしょーッ!」

 急いで届けにいくダーシャの背中を見送りながら、アニーは不満気な表情を浮かべる。

「店長に怒られました。突然怒るような大人になりたくないっスねぇ」

「え? う、うーん? そう? まぁ、気をつけような……」

「? なにをっスか?」

 なんのことかわかっていないアニーは、首を傾げながら過去を思い返すが、全く身に覚えがない。店長もストレスが溜まってるな、と大人の対応で許してあげる。

 そのアニーの姿を見、ビロルは飲食業界の就職はやめとこうか、と心が揺れた。