え?

 ヴァルトの三人は互いに顔を見合わせる。なにがというわけでもないが、互いに指を差し合い、よくわからないが顔を振って否定する。

「譲る!? え、なんでそんな話になっちゃってんの?」

 口火をダーシャが切る。

 困ったようにユリアーネは口元に手を当てる。

「ですが……占いに『この店を自分のものにせよ』と出てしまいましたし……一度出た結果を覆したら、どんな災いが起きるか……」

「いや、占いは適当って言ってたよね? あんま信仰してなくない?」

 冷静にダーシャは物事を整理する。

 迷うような素振りを見せながらも、ユリアーネは自分の主張を貫く。

「ですが、一度決めた店で生涯貫くと、その後の占いで出てしまっているので、ここのお店を私の店にするしか……」

 このままだと堂々巡りになりそうだと判断し、ダーシャは場を落ち着かせる。

「ちょっと何言ってるかわかんないけど、アルバイトってもっと気楽に考えていいんじゃない? 占いは占いだよ?」

 ひとまず鎮静させようとするが、

「いえ、占いは絶対です。ここのお店を譲っていただけないのであれば、オーナー様を海に沈めてでも、許可を得ます」

 と、最近どこかで似たようなことを言ってた店員がいた気がダーシャはした。その時は山だったか。

「怖いこと言ってるっスよ。オーナーは生きて、色々な法を全て被ってもらわなきゃなので、沈めちゃダメっス!」

「身代わりで出頭するみたいな言い方になってるけど、沈めたら開業の法とかより先に、普通に罪になるからね」

 都合よく記憶を消すアニーを制しつつ、最もな一般論を説く。

「それで、合否はいつ頃いただけますか?」

 急かすようにユリアーネが前のめりに聞いてくる。

 一瞬躊躇し、ダーシャは考え込んだ。

「うーん、さっきまでは全然お願いしようかと思ってたんだけど、ちょっと悩むなぁ。お店も乗っ取られちゃ困るし」

「そんな! 正気っスか! 店長の家のコーラを全部、醤油に変えるけどいいンスか!」

「やめなさい」

 乗り気じゃないダーシャに、アニーは地味な嫌がらせを提案する。

 ビロルも聞く耳は持たないようで、なにかメモ書きをしている。

「でもそれを補って余りあるくらい華がありますよ。もういいでしょ、はい決定。じゃあユリアーネちゃん、好きな時間に好きなように来ていいからね。あとで、個人的に俺のシフト渡しておくから」

「は、はぁ……」

 書いたメモを、戸惑うユリアーネに渡し、ビロルは厨房に戻る。

 待ってくださいよー、とアニーもそれに続くが、一度振り返るとユリアーネに笑顔を向け、再度店に戻っていった。

 二人の声が遠くなっていく。

 イスに深く腰掛け、ダーシャは深く息を吐いた。

「で、本当の目的は? オーナーはなんて?」