アニーが指で写真フレームを作り、片目でユリアーネを覗いている。

「ふむふむ」

「……なにしてんの?」

 たまらずダーシャが疑問を問いかける。

 作業を続けたまま、アニーは眉を顰めて唸る。

「いや、視界にビロルさんが入り込んでくるので、うまく消しながら良い構図を探してるんです」

「俺、なんかした? さっきから」

 収拾がつかないため、ダーシャが先に進める。この二人がいるとなにもかもが台無しになってしまう。ひとつ咳払いし、場を正した。

「申し訳ない。ダーシャ・ガルトナーです。えーと、ユリアーネ・クロイツァーさん。まず志望動機をお願いします」

 と、会話を促す。アニーとビロルはなんだかんだ戻りそうにないので、放置しておくことにした。そのうちカッチャが迎えにくるだろうと予想。渡された履歴書を見ながら、話をすすめていく。

 声をかけられ、静かにユリアーネは口を開いた。

「はい、コーヒーが好きで、将来は自分のお店を持ちたいと思い、その勉強として応募させていただきました」

「紅茶はどうっスか?」

 結局、横からアニーが入ってくる。美少女ということでウキウキしているようだ。満面の笑みで問いかける。肯定的な返答を期待していたが、

「紅茶はあまり。ほとんどコーヒーです」

 と、ユリアーネに否定され、アニーは少ししょんぼりとする。

「もう採用でいいんじゃないですかー? 人数いた方がいいのは本当だし、接客とかもよさそうだし」

 それに可愛いし、という言葉もつけたそうとしたが、ビロルは一瞬で引っ込めた。あまりほいほいと可愛いを言うと、軽い男に思われる可能性がある。焦らせるくらいのほうがちょうどいい。この子は責任感のあるアニキが好きだ。そうに違いない。そうであってくれ。

「そうっスよ。どうせボクの店に引き抜くつもりなんで、ボクが教育したいです」

 さらっと邪な考えを流しながら、アニーはユリアーネの背後にまわり両肩を軽く叩く。 予め確保しておこうという魂胆のようだ。

 隠そうとしないアニーにダーシャは乾いた笑いを浮かべる。

「そういうのは心の中で思っててくれる? でもどうしてウチの店に? ベルリンにはたくさんカフェはありますよね?」

 とりあえず、ありきたりな質問をする。だが実際にベルリンにはかなりの数のカフェがあり、それぞれコンセプトがあるお店も多い。理由を問うてみる。

 しかし、その間にアニーが割って入る。

「そんなもん、どうだっていいじゃないっスか。採用です、採用」

 ふくれっ面で強引に話を進めようとする。

 少し恥ずかしそうにしたユリアーネは、はにかみながら口を開いた。

「コーヒーの……導きです」

「え?」

「お?」

 なにやら聞き慣れない会話の流れになり、ヴァルトの面々は発言の内容を反芻して飲み込む。が、うまく消化できず、ユリアーネが次に発現するまで待つことになった。

 タイミングを見計らって、肩をこわばらせながらユリアーネは続けた。やはりそういう反応になりますよね、と前置きをしつつ。

「趣味でコーヒー占いをやっているのですが、それでここしかない、と出ました」

 数秒、自身で思案してみたが、埒があかないのでアニーはダーシャの方に顔を向ける。うわ、美少女からのおじさんはキツい。

「店長、コーヒー占いってなんですか? 四〇なんだから詳しいでしょ」

「なんだからって何よ。まだ三八だし。たしか、トルコとか中東あたりで、昔から伝わる占いだったかな。飲み終わったカップに沈殿した模様で占うとか」

 うろ覚えだが、たしかに聞き覚えがあるダーシャは、脳裏にある情報をまとめてみる。しかし実際にやったことも、見たこともない。聞いたことあるだけ。