*蒼視点
年が明けて二月になった。
今日は日曜日で、昼からひょう花にいる。
今の時期は寒すぎるから、ちょっと外にいただけで、身体が芯まで冷える。
だから足湯がさらに気持ちよく感じる季節だ。お湯の中に足を入れると、じんとして、温かさが冷えた身体全体にめぐり、全体を温め浄化させる。足湯はすごい。
今日も優香ちゃんと一緒に、足湯に入っている。
毎回思う。優香ちゃんと同じ湯に足を入れているのが不思議だ。隣同士で足湯に浸かると、優香ちゃんとひとつに繋がれている気分だ。
最近の優香ちゃんは俺に対しての笑顔が自然になり、前と比べるとかなり警戒心が解けた状態で俺と接してくれている、気がする。
満足だけど、不満もあった。
黄金寺も一度ここに来てから、何回も来るようになってしまった。
「はい、おごり」
「ここのリンゴジュース美味しいんだよね。ありがとう」
黄金寺がリンゴジュースを優香ちゃんに渡すと、優香ちゃんは可愛く両手で受け取り微笑んだ。俺にも気を許してくれている気がするけれど、黄金寺にはもっと心を開いている気がする。リンゴジュースとかソフトクリームとか……黄金寺が優香ちゃんに沢山奢っているからなのか? 俺よりも黄金寺の方が優香ちゃんと仲良く見える件は、気のせいだといいのだが。
「優香ちゃん、熱くない?」
そう言って黄金寺も優香ちゃんの隣に座り、足をお湯に入れてきた。
正直、黄金寺とはお湯で繋がりたくはない。
「しおりん! 遊ぼ!」
後ろから咲良の声がした。〝しおりん〟とは、黄金寺の名前、詩織のしおりんだ。今日は兄貴と咲良も来ている。
「あと五分ぐらいしたら行くね!」
「分かったー。ゲームしよ」
でかしたぞ咲良。黄金寺が咲良のところに行けば、優香ちゃんとふたりきりでまったり出来る。やつは五分ちょうど経つと、咲良がいる遊び場所へ旅立った。三人仲良い家族みたいにテレビゲームをして遊んでいる。
ちなみに今三人がしているゲームの本体と、格闘系のゲームソフトは金持ちの黄金寺がここに寄付していた。
近いうちに優香ちゃんと、今よりもふたりの関係が深くなれるような話をしようと決めていた。多分、咲良たちはしばらくここに来ない。今しようかな?
よし、今あれを訊いてみよう。
でも、どうやって踏み出そう。
なかなか最初の一歩を踏み出せず。
「優香ちゃんのリンゴジュース、本当に美味しそうだね」
「うん、搾りたてだからすごく美味しいよ。でも値段が高いから、なかなか自分では頻繁に買えなくて……飲める時がいつも貴重なんだよね」
「そっか、いいね」
俺はじっと飲んでいる姿を眺めていた。
「あ、飲んでみる? ひとりで飲んでごめんね」
そう言って優香ちゃんは俺にコップを渡してきた。俺は「ありがとう」とお礼を言い、普通にストローに口をつけて飲んだけど……こ、これって間接……。
「あ、ありがとう。美味しいよ」
「でしょ?」
優香ちゃんは俺が返したコップを受け取ると、普通に微笑みながらストローでジュースを飲み干した。
もしかして俺って、全く男として意識されていないのか……。でもあのことを訊いてみて、深い話をしたいって決めたから――。
「……優香ちゃんって、恋人か……好きな人っているの?」
質問を開始した時点で、このふたりの空間だけが周りとは別の空間になったみたいに、静かになったように感じた。
返事を訊くまでの時間が長い。
「いないよ」
いないと訊いて、ほっとした。
「でもね――」
まだ続きがあるのか?
*優斗視点
「でもね、恋人はいないけど、好きな人はいるかな? ばあちゃんと、あとは……。あ、でも今は恋の好きな人ってことだよね?」
「ばあちゃんか……」
僕が質問に答えると、高瀬はふんわり微笑んだ。
恋の好きな人がもしも出来たら、どんな気持ちなんだろうな。ばあちゃんや、人じゃなくて犬だけど、ゆきちゃん。そして離れて住んでる両親に対しての〝好き〟は実際に体験しているからよく分かる。一緒にいると、温かい気持ちになって、幸せでいてほしいなって気持ちになる。
「人って恋心を抱くと、実際どんなふうになるんだろうね」と僕は呟いた。
「恋をすると……相手のことでいつも頭がいっぱいになったり、楽しそうにしているとこっちも嬉しくなったり、自分の好きなものを一緒に好きになってほしくなったり……俺の場合は足湯かな? あとは、一緒にいる時間ごと、彼女の触れたものが全て愛おしくて……」
自分がリアルで体験しているかのように、優しい表情で語る高瀬。恋心について淡々と軽く何か言うだけかな?ぐらいに思っていたのに。
ふと呟いたことに対して、こんな具体的で長い返事が来るなんて予想外だった。
「恋をしているの?」
「うん」
僕の目を真剣に見つめて、高瀬はうなずいた。
急に高瀬が僕の手を握ってきた。
手を離そうとしても離してくれない。
「あ、あの、手を……」
「この手を離したくない……」
すごく真剣な表情でこっちを見てきて、僕の心臓の音がドクドク……って、急に早くなった。足湯のせいもあるのかな? 顔がぼうっと熱くなる。どうしようってなって、視線を足元に落とした。
「……いや、ごめん」
そう言いながら慌てた様子で高瀬は僕の手を離した。
年が明けて二月になった。
今日は日曜日で、昼からひょう花にいる。
今の時期は寒すぎるから、ちょっと外にいただけで、身体が芯まで冷える。
だから足湯がさらに気持ちよく感じる季節だ。お湯の中に足を入れると、じんとして、温かさが冷えた身体全体にめぐり、全体を温め浄化させる。足湯はすごい。
今日も優香ちゃんと一緒に、足湯に入っている。
毎回思う。優香ちゃんと同じ湯に足を入れているのが不思議だ。隣同士で足湯に浸かると、優香ちゃんとひとつに繋がれている気分だ。
最近の優香ちゃんは俺に対しての笑顔が自然になり、前と比べるとかなり警戒心が解けた状態で俺と接してくれている、気がする。
満足だけど、不満もあった。
黄金寺も一度ここに来てから、何回も来るようになってしまった。
「はい、おごり」
「ここのリンゴジュース美味しいんだよね。ありがとう」
黄金寺がリンゴジュースを優香ちゃんに渡すと、優香ちゃんは可愛く両手で受け取り微笑んだ。俺にも気を許してくれている気がするけれど、黄金寺にはもっと心を開いている気がする。リンゴジュースとかソフトクリームとか……黄金寺が優香ちゃんに沢山奢っているからなのか? 俺よりも黄金寺の方が優香ちゃんと仲良く見える件は、気のせいだといいのだが。
「優香ちゃん、熱くない?」
そう言って黄金寺も優香ちゃんの隣に座り、足をお湯に入れてきた。
正直、黄金寺とはお湯で繋がりたくはない。
「しおりん! 遊ぼ!」
後ろから咲良の声がした。〝しおりん〟とは、黄金寺の名前、詩織のしおりんだ。今日は兄貴と咲良も来ている。
「あと五分ぐらいしたら行くね!」
「分かったー。ゲームしよ」
でかしたぞ咲良。黄金寺が咲良のところに行けば、優香ちゃんとふたりきりでまったり出来る。やつは五分ちょうど経つと、咲良がいる遊び場所へ旅立った。三人仲良い家族みたいにテレビゲームをして遊んでいる。
ちなみに今三人がしているゲームの本体と、格闘系のゲームソフトは金持ちの黄金寺がここに寄付していた。
近いうちに優香ちゃんと、今よりもふたりの関係が深くなれるような話をしようと決めていた。多分、咲良たちはしばらくここに来ない。今しようかな?
よし、今あれを訊いてみよう。
でも、どうやって踏み出そう。
なかなか最初の一歩を踏み出せず。
「優香ちゃんのリンゴジュース、本当に美味しそうだね」
「うん、搾りたてだからすごく美味しいよ。でも値段が高いから、なかなか自分では頻繁に買えなくて……飲める時がいつも貴重なんだよね」
「そっか、いいね」
俺はじっと飲んでいる姿を眺めていた。
「あ、飲んでみる? ひとりで飲んでごめんね」
そう言って優香ちゃんは俺にコップを渡してきた。俺は「ありがとう」とお礼を言い、普通にストローに口をつけて飲んだけど……こ、これって間接……。
「あ、ありがとう。美味しいよ」
「でしょ?」
優香ちゃんは俺が返したコップを受け取ると、普通に微笑みながらストローでジュースを飲み干した。
もしかして俺って、全く男として意識されていないのか……。でもあのことを訊いてみて、深い話をしたいって決めたから――。
「……優香ちゃんって、恋人か……好きな人っているの?」
質問を開始した時点で、このふたりの空間だけが周りとは別の空間になったみたいに、静かになったように感じた。
返事を訊くまでの時間が長い。
「いないよ」
いないと訊いて、ほっとした。
「でもね――」
まだ続きがあるのか?
*優斗視点
「でもね、恋人はいないけど、好きな人はいるかな? ばあちゃんと、あとは……。あ、でも今は恋の好きな人ってことだよね?」
「ばあちゃんか……」
僕が質問に答えると、高瀬はふんわり微笑んだ。
恋の好きな人がもしも出来たら、どんな気持ちなんだろうな。ばあちゃんや、人じゃなくて犬だけど、ゆきちゃん。そして離れて住んでる両親に対しての〝好き〟は実際に体験しているからよく分かる。一緒にいると、温かい気持ちになって、幸せでいてほしいなって気持ちになる。
「人って恋心を抱くと、実際どんなふうになるんだろうね」と僕は呟いた。
「恋をすると……相手のことでいつも頭がいっぱいになったり、楽しそうにしているとこっちも嬉しくなったり、自分の好きなものを一緒に好きになってほしくなったり……俺の場合は足湯かな? あとは、一緒にいる時間ごと、彼女の触れたものが全て愛おしくて……」
自分がリアルで体験しているかのように、優しい表情で語る高瀬。恋心について淡々と軽く何か言うだけかな?ぐらいに思っていたのに。
ふと呟いたことに対して、こんな具体的で長い返事が来るなんて予想外だった。
「恋をしているの?」
「うん」
僕の目を真剣に見つめて、高瀬はうなずいた。
急に高瀬が僕の手を握ってきた。
手を離そうとしても離してくれない。
「あ、あの、手を……」
「この手を離したくない……」
すごく真剣な表情でこっちを見てきて、僕の心臓の音がドクドク……って、急に早くなった。足湯のせいもあるのかな? 顔がぼうっと熱くなる。どうしようってなって、視線を足元に落とした。
「……いや、ごめん」
そう言いながら慌てた様子で高瀬は僕の手を離した。