案の定、湯ノ原はゲームが下手だった。太鼓の達人では簡単モードですら打ち間違えるし、マリカーは壁に激突してばかりだし、ガンシューティングでは虚空に向かって延々と弾を発射し続けている。お前、いつの時代の住人なの? と思わずツッコミを入れたくなるド下手さだ。
だからといって不機嫌になるでもなく、それどころか「あっちのゲームもやってみようぜ!」と積極的に誘ってくるものだから、俺はまた少し湯ノ原のことが好きになった。
そうしてゲーセンで遊び倒した後は、昼食をとるためにお決まりのファストフード店へとやってきた。カップル、ファミリー、大学生、さまざまな人々で賑わっている。
「いやー遊んだ遊んだ。久々にこんなに遊んだわー」
ハンバーガーの包み紙を剥ぎながら俺は言った。目の前では、湯ノ原が一足早く大きなハンバーガーにかぶりついている。
「橘や林田とはゲーセン来ねえの?」
「わりと来るけど、あんまアレコレはやんないんだよな。一つのゲームにガッツリ課金する感じ」
「ふーん」
ハンバーガーをかじりながら取り留めのないおしゃべりをした。英語の小テストの話だとか、最近読んだ漫画の話だとか、新発売のスナック菓子の話だとか。心晴と朝陽くんなしでは間が持たないかもと心配していたが、杞憂に終わり、楽しい時間が過ぎていく。
意外と気が合うのかもね、俺たち。
トレーの上がおおかた綺麗になった頃、隣の席にカップルらしき2人組が座った。高校生、いや中学生だろうか。Lサイズのポテトを2人で仲良くわけあっている。俺が一度も経験したことのない光景だ。
「なー……湯ノ原って彼女、いる?」
俺が声をひそめて質問すると、湯ノ原は明らかに動揺した。
「え……何で?」
「いや、何となく聞いただけ?」
興味ない風を装いながらも、俺は内心ワクワクしながら湯ノ原を見つめた。
この動揺っぷりは、まさか最近彼女ができたばかりとかそういうアツい展開か? それとも実は付き合って3年になる彼女がいるとか、はたまた年上の大学生と付き合ってるとか?
あ、待てよ。そしたら心晴はどうしよう。心晴を湯ノ原にやるつもりは更々ないが、初恋が失恋で終わるというのも可哀想だぞ。……難しいなぁ。
悩む俺の手前、湯ノ原は照れくさそうに言った。
「付き合ってる人はいないけど……ちょっと気になってる人はいる」
「……へー?」
これは詳しくツッコんでもいいのだろうか?
「いつから気になってんの?」
「わりと最近……かも」
「告白は? すんの?」
「……まだしない。よくわかんねぇし」
「わかんないって何が?」
「本当に好きなのかどうか。ちょっと今までにないタイプの人でさ……」
湯ノ原は気まずそうに視線を反らした。それがあまりにも奇妙な態度だったので、俺はピンと閃いた。
「ゆーのーはーらー……このロリコン野郎。心晴によこしまな感情を持ったらブチ殺すと、毎度毎度口を酸っぱくしてだなぁ……」
「……え? あ! 違う違う違う心晴ちゃんじゃない! 普通にクラスメイト!」
クラスメイトか、なら良し。
俺はすぐに怒りを引き下げたが、湯ノ原はしまったという表情になった。確かに湯ノ原と交流のあるクラスメイトといえば、結構しぼられちゃうもんな。
俺は好奇心いっぱいで質問した。
「……榎田さん? 手芸部の」
「……違う」
「女バスの柏さん?」
「違う」
「あ! 久本さんだ! 同じ水泳部だろ」
「違うしヤメロ! 特定しようとすんな!」
湯ノ原が本気で迷惑そうに叫んだので、俺は大人しく口を閉じた。普段温厚なやつほど怒らせると怖いからだ。帰宅部の俺が運動部の湯ノ原に殴りかかられたら、鼻骨骨折は免れまい。
氷が溶けて薄くなったコーラを吸いながら、代わりの話題を探した。しかし意外にも、湯ノ原が真面目な表情でこう尋ねてきた。
「佐倉……俺、どうしたらいいと思う?」
「ん、気になる人の話?」
「そう。自分の気持ちが全然わかんねぇんだよな。本当に好きなのかどうかも、そいつとどうなりたいかも」
「んー……」
まさか湯ノ原から恋愛相談を受けるとは想像もしていなかった。彼女いない歴=年齢の俺が言えることなど多くはないが、湯ノ原が本気で悩んでいる様子なので、何かしら力になってやりたいとは思う。そこでとりあえず頭に浮かんだことを口にしてみた。
「じゃあ例えばさ。今、湯ノ原の目の前にその相手がいたとして。何でも好きなことをしていいよ、って言われたら何すんの?」
「ハグしてキス」
「即答か! それ、もう大好きだろ!」
「えー」
えー、じゃねえわ。ハグしてキスしたい気持ちに恋愛意外の何があんの?
「ほら、全部解決したじゃん。湯ノ原はそいつが大好き。あわよくばハグしてキスしたい。そうするためには告白して付き合うしかない」
俺がドヤァッと胸を張れば、湯ノ原は不満げだ。
「付き合うって簡単に言うなよ。今、告白してもフラれる気しかしねぇんだけど」
「じゃあフラれないように頑張るしかねぇじゃん。湯ノ原ならやり方しだいでどうにかなるって。とりあえずガンガンいってみれば?」
「ガンガンねぇ……」
湯ノ原は悩ましげに考え込んだ。
とうにかなる、と言ったのは俺の本心だ。湯ノ原はイケメンだし、(心晴に惚れられている点を除けば)とてもいいやつだ。大概の人類は、湯ノ原に好かれてると知ったら悪い気はしないんじゃないかと思う。相手にすでに彼氏がいるのでなければ、努力しだいでお付き合いできる可能性は高い……気がする。
ああ、心晴のことは気にしないでくれ。初恋が破れたとなれば少し可哀想だが、心晴には俺がいるからな。大好きなお兄ちゃんがいれば湯ノ原なんていらんだろ!
心の中で高笑いしていると、湯ノ原がよそよそしく尋ねてきた。
「なぁなぁ。今さらだけど佐倉って彼女いんの?」
「逆に聞きたいんだけどいるように見えんの?」
「見えねー」
おい、少しは考えろよ。
だからといって不機嫌になるでもなく、それどころか「あっちのゲームもやってみようぜ!」と積極的に誘ってくるものだから、俺はまた少し湯ノ原のことが好きになった。
そうしてゲーセンで遊び倒した後は、昼食をとるためにお決まりのファストフード店へとやってきた。カップル、ファミリー、大学生、さまざまな人々で賑わっている。
「いやー遊んだ遊んだ。久々にこんなに遊んだわー」
ハンバーガーの包み紙を剥ぎながら俺は言った。目の前では、湯ノ原が一足早く大きなハンバーガーにかぶりついている。
「橘や林田とはゲーセン来ねえの?」
「わりと来るけど、あんまアレコレはやんないんだよな。一つのゲームにガッツリ課金する感じ」
「ふーん」
ハンバーガーをかじりながら取り留めのないおしゃべりをした。英語の小テストの話だとか、最近読んだ漫画の話だとか、新発売のスナック菓子の話だとか。心晴と朝陽くんなしでは間が持たないかもと心配していたが、杞憂に終わり、楽しい時間が過ぎていく。
意外と気が合うのかもね、俺たち。
トレーの上がおおかた綺麗になった頃、隣の席にカップルらしき2人組が座った。高校生、いや中学生だろうか。Lサイズのポテトを2人で仲良くわけあっている。俺が一度も経験したことのない光景だ。
「なー……湯ノ原って彼女、いる?」
俺が声をひそめて質問すると、湯ノ原は明らかに動揺した。
「え……何で?」
「いや、何となく聞いただけ?」
興味ない風を装いながらも、俺は内心ワクワクしながら湯ノ原を見つめた。
この動揺っぷりは、まさか最近彼女ができたばかりとかそういうアツい展開か? それとも実は付き合って3年になる彼女がいるとか、はたまた年上の大学生と付き合ってるとか?
あ、待てよ。そしたら心晴はどうしよう。心晴を湯ノ原にやるつもりは更々ないが、初恋が失恋で終わるというのも可哀想だぞ。……難しいなぁ。
悩む俺の手前、湯ノ原は照れくさそうに言った。
「付き合ってる人はいないけど……ちょっと気になってる人はいる」
「……へー?」
これは詳しくツッコんでもいいのだろうか?
「いつから気になってんの?」
「わりと最近……かも」
「告白は? すんの?」
「……まだしない。よくわかんねぇし」
「わかんないって何が?」
「本当に好きなのかどうか。ちょっと今までにないタイプの人でさ……」
湯ノ原は気まずそうに視線を反らした。それがあまりにも奇妙な態度だったので、俺はピンと閃いた。
「ゆーのーはーらー……このロリコン野郎。心晴によこしまな感情を持ったらブチ殺すと、毎度毎度口を酸っぱくしてだなぁ……」
「……え? あ! 違う違う違う心晴ちゃんじゃない! 普通にクラスメイト!」
クラスメイトか、なら良し。
俺はすぐに怒りを引き下げたが、湯ノ原はしまったという表情になった。確かに湯ノ原と交流のあるクラスメイトといえば、結構しぼられちゃうもんな。
俺は好奇心いっぱいで質問した。
「……榎田さん? 手芸部の」
「……違う」
「女バスの柏さん?」
「違う」
「あ! 久本さんだ! 同じ水泳部だろ」
「違うしヤメロ! 特定しようとすんな!」
湯ノ原が本気で迷惑そうに叫んだので、俺は大人しく口を閉じた。普段温厚なやつほど怒らせると怖いからだ。帰宅部の俺が運動部の湯ノ原に殴りかかられたら、鼻骨骨折は免れまい。
氷が溶けて薄くなったコーラを吸いながら、代わりの話題を探した。しかし意外にも、湯ノ原が真面目な表情でこう尋ねてきた。
「佐倉……俺、どうしたらいいと思う?」
「ん、気になる人の話?」
「そう。自分の気持ちが全然わかんねぇんだよな。本当に好きなのかどうかも、そいつとどうなりたいかも」
「んー……」
まさか湯ノ原から恋愛相談を受けるとは想像もしていなかった。彼女いない歴=年齢の俺が言えることなど多くはないが、湯ノ原が本気で悩んでいる様子なので、何かしら力になってやりたいとは思う。そこでとりあえず頭に浮かんだことを口にしてみた。
「じゃあ例えばさ。今、湯ノ原の目の前にその相手がいたとして。何でも好きなことをしていいよ、って言われたら何すんの?」
「ハグしてキス」
「即答か! それ、もう大好きだろ!」
「えー」
えー、じゃねえわ。ハグしてキスしたい気持ちに恋愛意外の何があんの?
「ほら、全部解決したじゃん。湯ノ原はそいつが大好き。あわよくばハグしてキスしたい。そうするためには告白して付き合うしかない」
俺がドヤァッと胸を張れば、湯ノ原は不満げだ。
「付き合うって簡単に言うなよ。今、告白してもフラれる気しかしねぇんだけど」
「じゃあフラれないように頑張るしかねぇじゃん。湯ノ原ならやり方しだいでどうにかなるって。とりあえずガンガンいってみれば?」
「ガンガンねぇ……」
湯ノ原は悩ましげに考え込んだ。
とうにかなる、と言ったのは俺の本心だ。湯ノ原はイケメンだし、(心晴に惚れられている点を除けば)とてもいいやつだ。大概の人類は、湯ノ原に好かれてると知ったら悪い気はしないんじゃないかと思う。相手にすでに彼氏がいるのでなければ、努力しだいでお付き合いできる可能性は高い……気がする。
ああ、心晴のことは気にしないでくれ。初恋が破れたとなれば少し可哀想だが、心晴には俺がいるからな。大好きなお兄ちゃんがいれば湯ノ原なんていらんだろ!
心の中で高笑いしていると、湯ノ原がよそよそしく尋ねてきた。
「なぁなぁ。今さらだけど佐倉って彼女いんの?」
「逆に聞きたいんだけどいるように見えんの?」
「見えねー」
おい、少しは考えろよ。