銀河系一かわいい俺の妹。
天界から生まれ落ちたプリティー・エンジェル。
お前をたぶらかす悪い男はお兄ちゃんが――ぶっ殺す。
「おにいちゃん。こはるね、好きな人ができたの」
妹の心春からそう打ち明けられたとき、俺は1トンハンマーで後頭部をぶん殴られたような衝撃を覚えた。思わず数歩、よろめいてしまう。
「すすすす好きな人って……ア、アンパンマンとかじゃなくて?」
「こはる、もうアンパンマン見てないもん!」
「じゃあ仮面ライダー……」
「ちーがーうー! ようちえんで会った人! やさしくて、すごくかっこいいの」
「えー……」
つまり心春の初恋ってこと?
兄である俺を差しおいて、心春にラブを向けられる憎き男がこの世界にいるってこと?
あまりのショックに立つことすらままならなくなった俺は、洗濯物を干していた母親の足下にすがりついた。
「母さん……心春に好きな人ができたって……」
「うんうん、聞いてた」
「まだ5歳なのにちょっと早くない?」
「別に早くはないんじゃない? 母さんの初恋も幼稚園の頃だったわよ」
「母さんの初恋話とか聞きたくねぇ……」
「失礼ね」
あまり失礼とは思っていない調子で言ったあと、母親は洗濯物干しに戻ってしまった。
俺――佐倉涼と心春は年の離れた兄妹だ。高校2年生の俺、幼稚園年中さんの心春。年の差は実に12歳。俺が中学生にあがろうかどうかという頃に心春を授かったんだから、両親はよくがんばったよなと思う。いろんな意味で。
年の離れたきょうだいが生まれたら、あまり興味を持たない人も多いんじゃないかと思う。しかし俺は違った。我が子のように心春を溺愛した。心春が小さい頃(今も十分小さいけど)は積極的におむつを変えたし、毎日の服だって選んであげた。手をつないで公園にだって行った。
だってめちゃめちゃ可愛いんだもん。ちっちゃなふくふくのお顔で「にぃに♡」って微笑まれた日にはもう、ねぇ。俺は一生、兄として心春の幸せを守ると決めたのだ。
「おかあさーん。こはる、お手紙かきたい」
「好きな人に?」
「そう。大好きだよ、いっしょにあそぼうね、ってかくの」
そうだというのにこの展開である。
いったいどこのどいつだ、心春の心を奪ったのは。マイ・プリティー・エンジェルの初恋相手だなんて、オータニさんくらいのスーパーマンじゃなきゃ許さねぇ。
「かわいい便箋、あったかしらねぇ」
引き出しを開け閉めする母親を横目に見ながら、俺は往生際悪く心春に質問した。
「心春ぅ。その好きな人って、お兄ちゃんよりかっこいい?」
「おにいちゃん100人分くらいかっこいい」
「100……⁉ お兄ちゃん、どうすればそいつに勝てる?」
「うまれかわる」
「今世じゃどう足掻いても勝てねぇの⁉」
「さとくん、すごくかっこいいんだもん。背がたかくてね、声もすてきでね」
さとくん、という名前を俺は心に刻みつけた。漢字に直すと佐藤くん、だろうか。
心春のかよう幼稚園は園児数が多いから、それだけの情報では特定は難しいかもしれない。
何にせよ心春をたぶらかしてタダで済むと思うなよ、どこぞの佐藤!
天界から生まれ落ちたプリティー・エンジェル。
お前をたぶらかす悪い男はお兄ちゃんが――ぶっ殺す。
「おにいちゃん。こはるね、好きな人ができたの」
妹の心春からそう打ち明けられたとき、俺は1トンハンマーで後頭部をぶん殴られたような衝撃を覚えた。思わず数歩、よろめいてしまう。
「すすすす好きな人って……ア、アンパンマンとかじゃなくて?」
「こはる、もうアンパンマン見てないもん!」
「じゃあ仮面ライダー……」
「ちーがーうー! ようちえんで会った人! やさしくて、すごくかっこいいの」
「えー……」
つまり心春の初恋ってこと?
兄である俺を差しおいて、心春にラブを向けられる憎き男がこの世界にいるってこと?
あまりのショックに立つことすらままならなくなった俺は、洗濯物を干していた母親の足下にすがりついた。
「母さん……心春に好きな人ができたって……」
「うんうん、聞いてた」
「まだ5歳なのにちょっと早くない?」
「別に早くはないんじゃない? 母さんの初恋も幼稚園の頃だったわよ」
「母さんの初恋話とか聞きたくねぇ……」
「失礼ね」
あまり失礼とは思っていない調子で言ったあと、母親は洗濯物干しに戻ってしまった。
俺――佐倉涼と心春は年の離れた兄妹だ。高校2年生の俺、幼稚園年中さんの心春。年の差は実に12歳。俺が中学生にあがろうかどうかという頃に心春を授かったんだから、両親はよくがんばったよなと思う。いろんな意味で。
年の離れたきょうだいが生まれたら、あまり興味を持たない人も多いんじゃないかと思う。しかし俺は違った。我が子のように心春を溺愛した。心春が小さい頃(今も十分小さいけど)は積極的におむつを変えたし、毎日の服だって選んであげた。手をつないで公園にだって行った。
だってめちゃめちゃ可愛いんだもん。ちっちゃなふくふくのお顔で「にぃに♡」って微笑まれた日にはもう、ねぇ。俺は一生、兄として心春の幸せを守ると決めたのだ。
「おかあさーん。こはる、お手紙かきたい」
「好きな人に?」
「そう。大好きだよ、いっしょにあそぼうね、ってかくの」
そうだというのにこの展開である。
いったいどこのどいつだ、心春の心を奪ったのは。マイ・プリティー・エンジェルの初恋相手だなんて、オータニさんくらいのスーパーマンじゃなきゃ許さねぇ。
「かわいい便箋、あったかしらねぇ」
引き出しを開け閉めする母親を横目に見ながら、俺は往生際悪く心春に質問した。
「心春ぅ。その好きな人って、お兄ちゃんよりかっこいい?」
「おにいちゃん100人分くらいかっこいい」
「100……⁉ お兄ちゃん、どうすればそいつに勝てる?」
「うまれかわる」
「今世じゃどう足掻いても勝てねぇの⁉」
「さとくん、すごくかっこいいんだもん。背がたかくてね、声もすてきでね」
さとくん、という名前を俺は心に刻みつけた。漢字に直すと佐藤くん、だろうか。
心春のかよう幼稚園は園児数が多いから、それだけの情報では特定は難しいかもしれない。
何にせよ心春をたぶらかしてタダで済むと思うなよ、どこぞの佐藤!