「こ、これは……なんということをっ!?」

 と口を大きく開いてみせる、第二王子ことカデル。
 幼いころから、本が大好きで知識も豊富。
 第一王子である兄アランの右腕。どんな時も冷静沈着な彼が、額から大量の汗を吹き出している。

「手に取ってお読みになられては? カデル王子」

 そう言って、ほくそ笑む。
 計画通りだ。
 
 チョークで、絵を描くのには限界があった。
 だから、百合で洗脳した兵士たちに命令し、紙と万年筆をゲット。
 あとは私がその真っ白だった世界に筆を使い、インクを落としていく。
 瞬く間に、百合の花で埋め尽くされた同人誌が完成された。

 その名も……。
『私生活ではあなたのメイドでも、ベッドの上では私がお姉さまよ』

 我ながら、素晴らしい作品を作ったわね。
 昨晩、作り終えたばかりだと言うのに、兵士長なんかはもう30回読み直したらしいわ。
 さすが私の弟子ね。

「……では、拝読させていただきます」
「どうぞ」

 ~数分後~

 最後のページを読み終えたカデル王子は、床に手をつき泣き始めた。

「ううっ……私は誓ったのです。この国のため、父上や兄上を支えるためにたくさんの知識を吸収したいと」

 溢れる涙が止まらず、思わず眼鏡を外すカデル。
 美しい碧色の瞳が露わになる。

「それで、どうでしたの?」
「なんと言ったら、良いか……ユリ様の描くこの本を読んでいると、こう胸が熱くなって……兄上の婚約者でこのような気持ちを抱くなどっ!」

 私は床に膝をつき、カデル王子の肩を掴む。
 そして優しく頷くのだ。

「カデル王子、創作と現実を一緒にしてはいけません」
「え? どういう意味ですか」
「この作品でオリヴィアはザリナに、あんなことやこんなことをしていましたが、実際の彼女は今どこにいますか?」
「そ、それは……宮殿で一番、厳重に守られている部屋で、今ごろザリナとクッキーでも作られているのでは……」
「素晴らしい。その通りです。だから、創作と現実をごっちゃにしてはなりません。こういう時は、素直に”てぇてぇ”と叫びましょう」

 私がそう言うと、兵舎に集まっていた兵士たちが叫び声をあげる。

「「「百合王国、万歳! てぇてぇ! キマシタワー!」」」

 ふふ、たった一週間でここまで仕上がるとは、ナイスですわぁ。

「しかし、私はこの国に命をかけているのですっ! そのような、いやらしいことを胸に抱いては……」
「カデル王子。自分を責めてはいけません。素直に受け入れるのです、自分と言う名の性癖を」
「ユリ様、わ、私は……」

 それ以上、彼を悩ませてはいけないと思った私は、優しく手をさし伸ばす。

「自分を追い込んではいけません。私と共に参りましょう、レッツ百合ライフっ!」
「はっ! イエス・ユア・マジェスティ!」

 これで残るは、アラン王子のみね。