「だから、もうお前との婚約は、ここに破棄するっ!」
「……」
はぁ?
このお兄ちゃん、ちょっと美形だからって勘違いしてない?
確かにリアルでは、なかなか出会えないイケメンだけど……。
それにしても、押しつけがましい。
私をそこらの女と一緒にしないでよね!
こちとら、3年以上彼氏を作っていない腐女子で姫女子なんだから。
私が怒って黙り込んでいると、隣りに立っていた少女が男の腕を掴む。
「あ、あの……”アラン”王子。そこまでしなくても良いのでは? ユリさんが謝ってくれたら、私はそれで良いのです」
ん? この気弱そうな女の子、どこかで見たことあるような……。
「オリヴィア、君はそうやって、また自分より他人を大切にしようとするのか!? あんな酷いことをされたというのに!」
「はい……私はアラン王子と仲良くなれたので。それだけでも幸せです」
「君ってやつは、なんてきれいな心を持った持ち主なんだ」
うわぁ……イチャつき始めたよ。
乙女ゲーかっての?
いや待てよ、これ間違いなく乙女ゲームの世界だわ!
私が一番知っている作品、『恋と魔法の国』よ。
目の前にいるのは、その主人公オリヴィアと攻略対象のひとり、アラン王子っ!
「ということは、まさか私って……。乙女ゲーの世界に転生したってこと!?」
しかも、私は物語の中でずっとオリヴィアをいじめていた、悪役令嬢……。
婚約を破棄したってことは、もう用済みで確か国外追放される。
なぜ、こんな酷い仕打ちを転生してまで経験させられるの?
というか、この悪役令嬢。名前が全然、違うじゃん。
確か公式の設定は、”キャロライン”だったはず……。
あ、もしかして。私がこのゲームを遊んでいた影響かな?
現実世界でゲームをプレイする前に、主人公の名前を”ユリ・デ・ビーエル”て遊んで登録したもんな。
ようやく、この世界が分かってきたわ。
※
自身がゲームの世界に入り込んでしまったこと。
それから、攻略対象のアラン王子に先ほど浴びせられたセリフ。
『公爵令嬢、”ユリ・デ・ビーエル”! お前との婚約は破棄だっ!』
は……、確か物語でも終盤のセリフ。
悪役令嬢との婚約を破棄し、主人公であるオリヴィアにプロポーズする名シーンだ。
ということは、私はこのあと国外追放されて、みじめな生活が待っているのでは……。
「うへぇ……マジでゲームの世界か。どうせなら、男しか存在しない世界が良かったな。逆でもありだけど」
そんなことをぼやきながら、辺りを見回す。
アラン王子やオリヴィアよりは、見劣りするが、周りのモブキャラたちも綺麗な格好をしている。
おしゃれなタキシードを着た美男子たちに、鮮やかなドレスを纏った少女たち。
きっとこの場所は、ゲームに登場する宮殿の中ね。
通っている学園を卒業する前に、宮殿で舞踏会を行う場面だわ。
どれも現実離れしていて、受け入れるのに時間が掛かりそう。
その時だった。アラン王子の元へ一人の青年が声をかけたのは。
「兄上。ビーエル家の令嬢と婚約を破棄される、ということはご覚悟の上でしょうね?」
「ああっ! ”カデル”、私は本気だ! この隣りにいるオリヴィアと……」
とアラン王子が言いかけた途中で、私が横から二人の間に張り込む。
「推しカプ、来たぁ~!」
すると、アラン王子と弟のカデルは、お互いの顔を見つめ合う。
「「おしカプ?」」